【カンヌ国際映画祭特集】「ifもしも…」もう一人のトラヴィスの過激な妄想

ifもしも…(1968)
if…(1968)

監督:リンゼイ・アンダーソン
出演:マルコム・マクダウェル、
デヴィッド・ウッドetc

評価:80点

世界三大映画祭の一つにカンヌ国際映画祭がある。カンヌ国際映画祭は、ベルリン、ヴェネチアと比べて受賞する作品に偏りがある為、ブンブンは映画に嵌まり始めた中学時代から毎年注目していました。しかし、ここ数年になるまでカンヌ国際映画祭に対して誤解していたことがあります。それは、「カンヌ国際映画祭」の受賞作品はアート系映画が多いという点です。確かに、演出としては長回しだったりメタファーを使っている作品はあれど、「わたしは、ダニエル・ブレイク

」や「ディーパンの闘い

」といった貧困を扱っている作品が賞を獲ったり、それこそ「アデル、ブルーは熱い色

」のようにLGBTと各社社会を紐付けた作品なんかもパルムドールを獲っていたりします。そう、政治的社会派映画が多いのです。ブンブンがカンヌ国際映画祭に嵌まり始めた頃の受賞作品が「ブンミおじさんの森」や「ツリー・オブ・ライフ」と難解な作品だったからずっと誤解していたのだが、正直ベルリン国際映画祭よりも社会派な作品が獲る傾向にあります。寧ろヴェネチア国際映画祭の受賞作の方が、「えっつ」と思う難解アート作品が多い傾向にあります。

閑話休題、今回はそんなカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した作品「ifもしも…」を紹介します。時代背景を知っていると非常に興味深い作品ですぞ!

「ifもしも…」あらすじ

英国で500年の伝統を誇る全寮制のパブリック・スクール。そこは高圧的な教師と、完全なる縦社会による暴力が支配していた。そんな厳しい学校の教育に嫌気が差している、ミック、ジョニー、ウォレスは下級生やコーヒーショップの女店員を誘って革命を起こそうとするが…

五月革命の後だからこそパルムドールを獲れた!

本作は、正直物語が急展開を遂げる後半1時間まで退屈かもしれない。厳しい学園生活を短編集、オムニバスの構造で描いており、また白黒パートとカラーパートの意味が分かってくるまで相当な時間を要すので、今のようなテンポ良く進む映画を見慣れているとキツかったりします。ブンブンも最初は、「えっつつまらないんじゃないか?」と後半になるまで不安になりました。実際にその年のカンヌ国際映画祭のラインナップを観ると、他に獲れたのではと思います。

第22回カンヌ国際映画祭コンペティション作品リスト

・Ådalen ’31(ボー・ヴィーデルベリ/スウェーデン)
・嵐を呼ぶ女(アレクサンドル・ペトロヴィッチ/フランス,ユーゴスラビア)
・カルカッタ(ルイ・マル/フランス)
・Dillinger è Morto(マルコ・フェレーリ/イタリア)
・Don’t Let the Angels Fall(ジョージ・カツェンダー/カナダ)
・イージー・ライダー(デニス・ホッパー/アメリカ合衆国)
・España Otra Vez(ハイメ・カミノ/スペイン)
・Fararuv Konec(エヴァルト・ショルム/チェコスロバキア)
・Flashback(ラファエレ・アンドレアッシ/イタリア)
・明日よさらば(ジュリアーノ・モンタルド/イタリア)
・If もしも….(リンゼイ・アンダーソン/イギリス)
・裸足のイサドラ(カレル・ライス/イギリス)
・Le Grand Amour(ピエール・エテックス/フランス)
・モード家の一夜(エリック・ロメール/フランス)
・Manden Der Taenkte Ting(イェンス・ラヴン/デンマーク)
・Matzor(ギルバート・トファノ/イスラエル)
・Metti Una Sera a Cena(ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ/イタリア)
・Michael Kohlhaas(フォルカー・シュレンドルフ/西ドイツ)
・日本の青春(小林正樹/日本)
・アントニオ・ダス・モルテス(グラウベル・ローシャ/ブラジル,西ドイツ,フランス)
・蝿取り紙(アンジェイ・ワイダ/ポーランド)
・Slaves(ハーバート・ビーバーマン/アメリカ合衆国)
・約束(シドニー・ルメット/アメリカ合衆国)
・ミス・ブロディの青春(ロナルド・ニーム/イギリス)
・Vsichni Dobrí Rodáci(ヴォイチェフ・ヤスニー/チェコスロバキア)
・Z(コスタ・ガヴラス/ギリシャ)

このラインナップだったらグランプリ(パルムドール)は「イージー・ライダー」か「Z」だと思う。ただ、フランスの歴史を観ると、「ifもしも…」がいかに当時重要だったのかがわかります。というのも前年、カンヌ国際映画祭は五月革命で中止になっています。この時代、世界各国で「民主化民主化謳われているが、実際に民主化は行われていないのでは」と大人を不審に思う学生が過激な運動を行っていました。日本でも安保闘争や東京大学での紛争が勃発していました。

フランスも1966年から教授の権威・階級に対する学生との対立が始まっており、1968年5月10日にベトナム戦争反対を巡って激しい運動が行われました。この五月革命により、1968年のカンヌ国際映画祭は中止に追い込まれました。

そしてカンヌ国際映画祭復帰第一回目の最高賞にこのアナーキーな「ifもしも…」を選んだのです。

白黒とカラーパートから観る学生の鬱憤

教員は学校という閉鎖領域でえばっている、上級生の年齢が違うという差異だけで下級生を苛める。そんな状況でも革命を夢見て、とことんアナーキー、反社会的であろうとすることで自分のアイデンティティを保つというテーマが非常に当時ウケたのだろう。現にフランスだけでは亡く、日本でも1969年度のキネマ旬報ベストテンで3位に本作を選んでいる程だ。

そして、当時の人の心を鷲掴みにしたのは恐らく白黒とカラーパートの見事な使い分けだと思われる。通常、白黒は回想や、懐古するシーンで使われる。本作もタイトルに「if…」をつけているぐらいなので、白黒かカラーのどちらかは虚構といえる。

劇中、はっきりと言及されていないのだが、恐らく現実は「白黒パート」なのではと考えられる。慎ましく、日々を生き抜く。退屈で退屈でしょうがない日々。それを妄想というカラーの世界では、暴力を誇張し、そして誇張された暴力、膨張する憎しみを凄まじい形で焼き払う。ただ、それは妄想に過ぎない。現実では出来るわけがない。そういう演出なんじゃないだろうか。

実際に白黒とカラーを真逆な使い方している作品に「オズの魔法使い」がある。これも、ファンタジーという世界を強調するために、現実パートを白黒(セピア)で描いている。

トラヴィスの原点?

さて、そう考えたときに、主人公である「トラヴィス」が非常に面白い意味合いを帯びてくる。トラヴィスと言えば、言わずと知れた「タクシードライバー」の狂った主人公の名前です。本作の数年後にカンヌ国際映画祭で「タクシードライバー」がパルムドールを受賞している。「ifもしも…」では、実際に行われなかったであろう暴力が、こちらでは実際に行われ、そして無残にも人生が壊滅していく。そう考えると、「タクシードライバー」の魅力が更に高まってくるでしょう。

最後に…

本作を観て、妙にシンパシーを感じました。というのも誰しも若かれし頃には破壊願望があります。ブンブンも昔を振り返ってみたら、小学校時代、高圧的な教師といじめに頭を悩ませていた。そして、宗教的なまでに「全員前へ倣え」という体制が本当に嫌いすぎて、音楽祭の感想文で、「『ダイ・ハード』のようにテロリストが来ないかな?」と書いて呼び出されたことを思い出しました。

青春映画として個人的に好きな一本。実はDVD化されていないらしいので、是非ともDVD,ブルーレイを作って欲しいです!

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