GW暇だったのでラヴ・ディアスの10時間半映画『あるフィリピン人家族の創生』を観た結果…

あるフィリピン人家族の創生(2005)
原題:Ebolusyon ng Isang Pamilyang Pilipino
英題:Evolution of a Filipino Family

監督:ラヴ・ディアス
出演:Elryan de Vera,Angie Ferro,
Pen Medina,Marife Necesito etc

評価:10点

GW…外はバカンス日和。こう言う時は美術館に行ったり、映画館に行ったり、はたまた公園で横になりたいものだが、東京はどこも人、人、人、ウンザリするほど人が多い。ってことで、自宅にいながらバカンスらしいことをしたいなーと思った矢先、映画超人向けVODサイトMUBIでラヴ・ディアスの作品が大量レンタルされていることに気づいた。ラヴ・ディアスといえば、『痛ましき謎への子守唄』『立ち去った女』などで有名なフィリピン映画界の鬼才。上映時間が基本的に3時間を超え、しかも毎年一本ペースで作品を発表している映画超人殺しの監督である。当然ながら、映画祭以外で目にすることは滅多にない。彼のフィルモグラフィーのほとんどがDVD化すらされていない。そんな彼の作品が1本400円で観られるのだ。これは目から鱗である。ラインナップは下記の9本。

・STORM CHILDREN, BOOK ONE
・昔のはじまり
・AN INVESTIGATION ON THE NIGHT THAT WON’T FORGET
・FLORENTIA HUBALDO,CTE
・CENTURY OF BIRTHING
・ELEGY TO THE VISITOR FROM THE REVOLUTION
・メランコリア
・HEREMIAS
・Evolution of a Filipino Family

今回、ブンブンはラヴ・ディアスのフィルモグラフィー史上最強クラスの長尺。なんと625分もある『Evolution of a Filipino Family(あるフィリピン人家族の創生)』を観ることにしました。Wikipediaでは593分となっているが、MUBIの配信版はどうやら完全版な為か30分ほど長くなっています。今までに観た作品の中で『アウトワン

』に次ぐ10時間超え映画。果たして…

『あるフィリピン人家族の創生』あらすじ

1971から1987のフィリピン史を、ドキュメンタリー/ドラマを組み合わせて描いた叙事詩。マルコス大統領の独裁、そして戒厳令によって支配されたフィリピン。田舎にまで兵士の監視の目がいき、怪しいものは暴力による制裁を受けていたあの時代。1986年のエドゥサ革命でマルコス打倒の突破口が開かれるまでフィリピンでは何が起きていたのかを追う…

ブレーンストーミング後のホワイトボードなど観たくない

本作は、映画として失格だ。テストで言うならば限りなく0点に近い作品であると断言できる。『あるフィリピン人家族の創生』は、ラヴ・ディアスが映画作りを放棄してしまったトンデモ映画だったのだ。

今まで、ラヴ・ディアス映画に高得点を出していたブンブンが何故こうも激怒したのか?それは、この映画が《映画》として全くもって完成しておらず、ブレーストーミングした後のホワイトボードをドヤ顔で見せつけてきたからだ。説明しよう。本作は例のごとく、点のような小話が乱立させていく。今まで鑑賞した『痛ましき謎への子守唄』『立ち去った女』『昔のはじまり』では、5分くらい席を離しても問題ないようなシーンの連続が重なりに重なり、ある形がモザイクとして浮かび上がり、終盤には散り散りになったエピソードが一つのメッセージに収斂される作風であった。これがメチャクチャ面白く、ラヴ・ディアス監督の魅力の一つでもあった。しかし、ここではただエピソードを並べただけ。それも支離滅裂なのだ。例えば、いきなり中盤数度に渡りメイキング映像が入る。アフレコを収録する場面や、フィリピン映画史について語る場面がある。しかし、これが唐突に現れては消えるのだ(チャールズ・ブロンソンの映画の話からリノ・ブロッカの話へ飛ぶシークエンスは面白かったのになーもう少し聞かせて欲しかった)。しかもフィリピン映画史についての解説は、いきなり途中でぶつ切りとなってしまう。

その後も、貧しい農民の様子を切り取っているかと思えば、いきなりエドゥサ革命の実際の映像を數十分に渡り垂れ流す。そして、今度はマルコス政権下における映画祭事情のドキュメンタリーが幕を開ける。章立てをしているならまだしも、全てが突然現れては消える。演出に全くもって一貫性がなく、ただただ思いつきに並べただけなのだ。確かに、タガログ語で「AKO’Y MAGNANAKAW(私は強盗です)」と書かれた看板をぶら下げながら街を闊歩し、軍人に暴力を振るわれる市民描写。街中でいきなり市民警官に刺された男が逃げて生き絶えるまでを長回しで演出するシーンなどショッキングかつ目を惹きつける描写はあるのだが、前後の繋がりが雑なので物語としての奥行きが弱くなってしまっている。

また、この映画が作られた頃は、恐らく監督が自分の型を見いだせていない。カメラは不用意にパンする。陰影のつけ方が下手で、よく状況がわからない描写も多い。

観たのが自宅で、適度に休憩を挟んだり、歴史背景を調べたりしたりできたので最後まで鑑賞できたが、これをスクリーンで魅せられたらたまったもんじゃない。発狂することでしょう。映画は、膨大な情報や技術を一つの形に整形して初めて映画となる。こんなアイデア手帳を魅せられても、なんだかなーと思ってしまう。なんだったら3本くらいに分けて、ドラマはドラマ、ドキュメンタリーはドキュメンタリーと分けた方が良い。

とはいえ、本作を観て後悔したかと訊かれたら、自信を持って「否」と答えることができる。何故ならば、この作品にあるアイデアはしっかり、後の作品で活かされているからだ。しかもハイクオリティなものへ生まれ変わって。

例えば、町をおじさんが「バローーーーーット」と叫びながら順繰り巡るシーンがある。そう、あれは『立ち去った女』で登場したバロット売りの原点だ。また、写真を見つめるおばあちゃんの構図、発話障がい者の悲痛の訴えなどといった要素は『痛ましき謎への子守唄』や『昔のはじまり』で見ることができる。そもそも、『昔のはじまり』は本作から無駄を削ぎ落としたリメイクに等しい。

つまり、これはラヴ・ディアスの原石なのだ。原石がしっかり形成され、ダイヤモンドに化けた作品が、ここ最近の作品だったのだ。だから、二度と観ることはないと思うが、ラヴ・ディアス好きとして非常に満足度が高い作品でした。GW暇な方は、是非お試しあれw元々ゴールデンウィークは映画業界用語なので、ゴールデンウィークの過ごし方として優等生な時間の使い方ができることでしょう。

ラヴ・ディアス監督作記事

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