【実話解説】『デトロイト』アカデミー賞まさかの落選だが『ハート・ロッカー』がお子様ランチに見える傑作だ!

デトロイト(2017)
DETROIT(2017)

監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジョン・ボイエガ、
ウィル・ポールターetc

評価:80点

本年度アカデミー賞最有力…だったキャスリン・ビグロー最新作が日本で公開された。12月ぐらいまでは、アカデミー賞ノミネート確実なのでは?と言われていたが、P.T.アンダーソンの『ファントム・スレッド』、や『ウィンストン・チャーチル』がまさかのノミネートを片っ端から強奪するダークホースっぷりを見せた為、まさかの無冠に終わってしまった。この衝撃は、2014年の『フューリー

』以来だ!

アカデミー賞無冠効果なのか、TOHOシネマズ海老名初日21:10レイトショーの予約は朝の段階で10人を切る壊滅的な状況だ。幸いにも、当日券勢がある程度いたおかげか2~3割程度の動員でしたが、やはり初週の動員は厳しそうだ。

さて、キャスリン・ビグロー『ゼロ・ダーク・サーティ』から約5年の沈黙を破り発表した作品だが、なんと40分を超える拷問シーンがあるらしい。ただ、実際に観てみると、予想していたものとは全く違う作品だった。そして、『デトロイト』を前に、『ハート・ロッカー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』はお子様ランチ、ましてや『K-19』なんかは離乳食にしか見えない程の傑作であった。

『デトロイト』あらすじ

1967年のデトロイト暴動の最中に発生したアルジェ・モーテル事件の映画化。白人警官と黒人との対立が激化し、毎日のように暴動が起こる町デトロイト。そこへ、モータウンの目にとまりビッグスターになることを夢見るザ・ドラマティックスがやってきていた。しかし、肝心なライブは暴動により中止。町を彷徨っていると、暴力的な白人警官に脅され散々な目に遭う。彼らは逃げるようにアルジェ・モーテルに滞在することにした。ピチピチ白人ギャルを部屋に連れ込み、盛り上がる一向。しかし、一人が調子に乗って、競技用ピストルを外に向けて発砲したことにより、悪夢の一夜と化す…

凄まじい三部構成

本作は拷問シーンばかりに目が行きがちだが、実は綺麗な三分構成となっており、各パートで全く違う毛色の物語を展開している。

第一部:戦場ドキュメンタリー

まず第一部。アカデミー賞技術賞関係にノミネートしてもおかしくないトンデモ光景が我々に襲いかかってくる。まるで、紛失していた1967年の映像が見つかったかのような想像を絶する暴動の光景が映し出される。デトロイトは、白人に対する怒りで黒人はブチ切れていた。しかも、それをなだめようとする黒人警官や警備員に対してはさらに怒りをためており、現地の黒人政治家も演説すれど、火に油をそそぐ始末。町はまさに戦場になっていた。もはや、劇映画に見えなかった。どうやってセットを作ったの?と思う程に戦場のデトロイトという世界観が緻密に作られており、それを粗いフィルムの質感且つドキュメンタリータッチで描く。正直、酔いましたwキャスリン・ビグローの手によって強制的に、タイムスリップさせられ我々が観た光景は、予告編の100倍とんでもなかった。

この光景を観ると、スパイク・リーが『ドゥ・ザ・ライト・シング

』で如何にこれをやりたかったのかがよく分かる。ヘイトを爆発させた時、人は正義の見極め方を忘れる。そして関係のない人を傷つける。優しい白人、味方の白人もいるのに、凶悪な白人という大きなモザイクを基準に無差別攻撃をしてしまう。それを実際に戦場を作り出して再現して見せたのが今回の『デトロイト』と言える。

第二部:拷問サスペンス

そして、1時間近く戦場ドキュメンタリーを見せられ、我々が気づかぬうちに映画的物語が始まる。それが問題の第二部《拷問》だ。実は、本作品が面白いところは、第二部の軸が凄惨な殺戮だけにないところだ。実は、1960年代に流行したモータウン音楽史というものを描いているのだ。モータウン(由来は自動車の町MotorとTownを掛けわせたもの)とはデトロイト発祥の音楽レーベルでソウルミュージックの先駆けとなった。

モータウン出身のアーティストにはアイズレー・ブラザーズやマーヴェレッツ、さらにはジャクソン5なんかがいます。本作を観ると、当時のモータウンが良くわかる。音楽ライブ会場で、注目を集めることでモータウンに近づくきっかけを作る。そして実際にモータウンに呼び出され、歌を披露。売れるか売れないのかをその場で判断する。その一連の光景は日本でいうアイドル文化に近いものがある。町では、モータウンの音楽がガンガン流れているが、しっかり聴くという感じではなく、店内BGMとして扱われる。つまり消費の音楽としてモータウンの音楽が位置していたことがわかる。
そして、この映画は後にブレイクするザ・ドラマティックスの青春物語になっているのだ。世間は、黒人への人種差別で暴動まで起きている。毎日自分のすぐ隣で暴力が横行しているのに、自分たちは歌で夢を掴もうとしている。果たしてそれでいいのかという苦悩がじっくりと描かれるのだ。正直、ただのデトロイトの暴動を描いた作品だと思っていただけに驚かされた。

さて話は長くなったが、この第二部の拷問は、噂通り恐ろしいものだった。というのも、第一部では人の心の奥にあるヘイトの爆発をマクロな観点から描いているのだが、第二部でそれがミクロな視点として描かれた時に、我々の道徳観が試されるのだ。第一部を観ていると、いかにも警察官が無差別に黒人をいじめているように見える。しかし、この第二部では、警察官でも黒人を殺すと罰せられることが明らかになる。『なんちゃって家族』に出ていたウィル・ポールター扮する白人警官フィリップ・クラウスが主役となって物語は進む。彼は、戦場に対する恐れと心の奥にある黒人に対するヘイトから、無闇に黒人に向けて発砲するクセがある。しかし、流石に黒人を背後から撃ってしまったことは警察署に知れ渡り、次やったらクビになるところまで目をつけられてしまう。そんな中、ザ・ドラマティックスが夜な夜な競技用の銃で警官を威嚇する騒動に遭遇してしまう。フィリップ・クラウスからしたら、黒人に殺されるかもしれないという不安がある。そして、次粗相をしたらクビになるという不安もある。それが怒りに転じてうっかり黒人一人を殺してしまう。そこで焦った、彼は殺された黒人の横にナイフを置き、正当防衛を装う。ただ、黒人の目撃者多数。なんとしてでも、銃で狙撃されたという証拠を見つけ、正当防衛を主張しないと自分の身が危ないと思うあまり、凄惨な拷問劇を展開してしまう。

実は、観る前までは、完全に白人警官の汚職を描いた物語だと思っていた。しかし、本作を観ると、非常に人間臭い形で拷問が行われていたことに驚かされる。元は普通の人間。暴動という名の戦争が人間を変えてしまったことにハッとさせられる。

第三部:羅生門式法廷劇

さて、この映画は拷問シーンが終わってからが本番だ。第三部では、一連の暴動に関する法定ドラマが展開される。しかし、白人警官もザ・ドラマティックスも偶然居合わせた警備員も真実を語ろうとしない。例えば、黒人警備員。偶然通りかかり、殺戮を目撃している。しかし、証言ではあたかも全てが終わった後を目撃したというように語っているのだ。一部始終を観ていたくせに。そして、ザ・ドラマティックスも、あまりに凄惨且つ理不尽すぎる事件から、なかなか真実を見出せない。白人警官は必死に正当防衛を主張する。我々は事件の一部始終を観ている。それだけに、人々は自分の身を守るために、無意識的、意識的問わず嘘をついてしまうというこの第三部の地獄にも恐ろしくなった。

そして、特に黒人警備員の愚行は傍観者としてこの事件を目の当たりにしている我々観客のことを指していると思うと、ビグロー恐ろしい奴めと唸らせられた。

本作は、アカデミー賞と一切関係なくなってしまったが、今一番劇場で観た方が良い傑作と言えよう。

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