2021映画

【アカデミー賞】『ファーザー』最恐の殺し文句「ちょっと何言っているか分からない」※ネタバレ考察

アンソニー(アンソニー・ホプキンス)は81歳。愛する娘アンが世話をしてくれている。そんなある日、彼女は「恋人とパリで暮らすの」と語る。ある日、アンソニーは家に見知らぬ男がいることに気づく。彼はアンの夫だと言う。10年以上彼女と暮らしていると語り始めるのだ。違和感を抱くアンソニー、すると彼の周りで怪奇現象が起き始める。チキンを調理していたその男は突然消える。彼だけでなく、もう一人いるはずの娘ルーシーがいない。「パリで暮らす」と言っていたアンが、突然「そんなこと言っていない」と突き放す。家族と楽しく話しているはずが、段々と顔に翳りが出てきて何故か泣き始める。一体何が起こっているのだろうか?

2021映画

【MUBI】『The Seventh Walk』アミット・ダッタは絵画の立体機動装置だ

アミット・ダッタは、都会の喧騒とした時間の流れから逃れ、スピリチュアルな音楽と美しさを極めた自然や建築構造の中で絵画の再現を行い、強烈な没入感を与える。その催眠効果の五感に訴える世界は何も考えずとも楽しいものがある。

ただ、よくよく画を見つめているとアミット・ダッタによる巧妙な戦略が見えてくる。Paramjit SinghとGoogleで検索すると、印象派テイストの油絵が沢山出てくる。しかし、映画では木炭画を中心に据えてくる。息を飲むような後光差し込む森林と木炭画の陰影を対比させることで、Paramjit Singhの作品に立体感を与えていく。

2021映画

【MUBI】『波紋』セルビア、10年もの呪縛をもたらすタバコ

セルビア人兵士のマルコはボスニア、トレビニェに帰る。婚約者と会うために。マルコは親友のネボイシャと束の間の憩いを求めてカフェに訪れる。途中で小さなタバコ屋に立ち寄り「ドリナ」という銘柄を買った。その直後、タバコ屋に3人の兵士がやってくる。

「『ドリナ』を寄越せ!」

と横暴な態度で店員に話しかける。しかし、「ドリナ」はマルコが買ってしまった。売り切れだ。そのことにキレる兵士。IDを出せと威嚇し、しまいにはリンチを始める。その様子を見ていたマルコは勇敢にも彼らに立ち向かう。

2019映画

【OAFF2021】『ブラックミルク』ゲル生活のかけら

ドイツで長年生活したウェッシ(ウィゼマ・ボルヒュ)がモンゴルの妹オッシ(グンスマー・ツォグゾル)のいるゲルに帰郷する。妹は伝統的なルールに従って慎ましく生きるが、そのことでドイツ生活に慣れているウェッシと軋轢が生まれてしまう。監督の自伝的内容なのだが、撮影が難航しているためか断片的ヴィジュアルが並べられているだけだ。本作は恐らく、外国かぶれしてしまいモンゴルの伝統に溶け込めない自分を見つめ直す映画であり、『ブルックリン』のような心理的変化が紡がれることを期待していたのですが、ひたすらゲルの慎ましい伝統を映すだけで、映画祭に来る人のオリエンタリズムを満たすことだけに全振りしているのが致命的だと思う。