【ネタバレなし】『スターリンの葬送狂騒曲』ロシアでは上映中止!これって今の日本じゃない?

スターリンの葬送狂騒曲(2017)
The Death of Stalin(2017)

監督:アーマンド・イヌアッチ
出演:スティーヴ・ブシェミ、サイモン・ラッセル・ビール、
ジェフリー・タンバー、オルガ・キュリレンコetc

評価:60点

日本では8/3(金)公開の『スターリンの葬送狂騒曲』。GAGAのVODサイト青山シアターのオンライン試写会で一足早く拝見しました。本作は、タイトルからも御察しの通り、スターリンの死をブラックコメディにした作品で、その過激さ故、ロシアはもちろん、EAPC諸国(ベラルーシ、カザフスタン、アゼルバイジャン等)で相次いで上映中止になった問題作です。

Sputnik News

には、本作品について次のように書かれていた。


Министерство культуры России отозвало прокатное удостоверение у британской комедии за два дня до премьеры фильма. Общественный совет российского Минкульта пришел к выводу, что фильм “не несет ни исторической, ни культурной ценности”, зато в нем “оскверняется советская символика – гимн, ордена и медали”.

ブンブン意訳:ロシア文化省は、映画の初演の2日前にこのイギリスのコメディーのレンタル証明書を撤回した。文化のロシア省の公共評議会はこの映画に関して、「いかなる歴史・文化的価値を見出せない」という結論に達しましたが、それは「国家、階級や勲章といったソ連のシンボルを冒涜している」を意味している。

この手のブラックコメディは定期的に作られる。『帰ってきたヒトラー

』もそうだし、この前のカンヌ国際映画祭ではその映画のムッソリーニ版である『Sono Tornato』が上映され話題となった。果たして、スターリン及び政府関係者をおちょくったこの『スターリンの葬送狂騒曲』はどんな作品なんだろうか。

『スターリンの葬送狂騒曲』あらすじ

スターリンが突如危篤!彼の側近たちは、スターリンの後釜を狙い、また敵を排除するチャンスだと思い、仁義なき戦いが勃発する。果たして、スターリンの跡を継ぐ者は誰なのか…?

日本及び世界情勢に通じる、保身ブラックコメディ

1953年にスターリンが突如脳卒中で倒れ、急死した話は有名である。本作は、スターリンが脳卒中で倒れてから死後葬式が行われるまでに注目したコメディだ。無論、「スターリンの死」というフレームワークだけ借りて、大幅な脚色を加えられている。この映画、正直観る人を選ぶ。『帰ってきたヒトラー』のように万人が笑える、楽しめる作品ではないことをまず初めに言っておこう。かなり、ギャグに癖があり、よく観察しないと分かりにくいところが多いのだ。ただし、本作が一貫して《自分の保身しか考えない(または保身を考えないと死ぬ)状況と社会主義による融通のきかない様子》に関する煽りに徹しているシステムであることが分かるとニヤニヤが止まらなくなってくる。

例えば、冒頭、コンサートシーンから始まる。突如、スターリンからコンサートのディレクターに電話がかかる。

「今日の公演の録音が欲しい」

録音なんかしていないコンサートディレクター。コンサートが終わってしまい、客が帰ろうとしているところ、急遽呼び止め、再度コンサートを行うように指示する。しかし、客の半分は帰ってしまった。このままでは、音の反響で、客が少ないことがバレてしまう。そこで、関係者に、急いで客を集めるように発破をかける。ただ、ディレクターの相方は非常に細かく、「17分後って、どこから数えて17分後?」と訊いてくるような奴。一筋縄ではいかない。かき集められた客は、編み物をしたり、酢の物を食ったりとコンサートを無視し思い思いのことをする。なんとか、録音データを政府関係者に渡すも、「受け渡しに遅れた。これは遅延として当局に報告する。」と人情のかけらもない塩対応をキメられてしまう。

スターリンが倒れる前から、一応は国のために動くが、実は超絶個人主義なソ連の肖像を色濃く演出しているのだ。

そして、スターリンが危篤になってからいよいよ、それが本格化する。政府関係者は、自分が利益を得られるように、互いに裏工作をし始める。スターリンの親族にいかに良い顔を見せるのか、スターリン葬儀の取り纏めなどといった面倒な仕事をいかに他人に押し付けるのかを全力でやってのける。その様子は、今の日本及び世界情勢にも通じるところがある。国民の為よりも、自分がいかに利益を得られるのかを考えて動く。面倒なことや、厄介ごとをいかに自分の影響外へ押しやるのかだけを考える。それこそ、ワールドカップや西日本の豪雨、猛暑といったイベントの裏で、水道法を改正しようとしたりカジノ法案を強行採決しようとしたり、少し前にはなるがドナルド・トランプ米大統領の訪朝し、アメリカと北朝鮮との親睦を深めた歴史的瞬間の裏で何故か日本が北朝鮮の経済支援の為に多額の資金を投入する羽目になったことと通じる。世界規模で見れば、EUの移民押し付け合戦だってまさにそうだ。なので本作は《自分の保身しか考えない(または保身を考えないと死ぬ)状況と社会主義による融通のきかない様子》というミクロな視点から普遍的マクロな社会批判に繋げていくブラックコメディだと言える。

とはいえ、『帰ってきたヒトラー』が公開当時トランプ大統領の面影を感じさせ、日本人も震撼させたことと比べるとやはり分かりづらいものがある。ギャグがどうも滑っているようにしか見えない。サブイギャグを勢いでなんとかしているようにしか見えないところが正直な感想。ソ連及びスターリンマニアが観たら面白いのかもしれないが、にわかなブンブンにとっては正直がっかりな作品でした。

そんな『スターリンの葬送狂騒曲』は8/3(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて公開。

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