【ネタバレなし】『カメラを止めるな!』有給を使ってでも、地を這ってでも観て欲しい7つの理由

4.ウーディネ・ファーイースト映画祭2018にて観客賞2位、日本がコロンビアに勝つ並みに凄いことなんです


本作が躍進したきっかけとなったのは、イタリア・ウディーネ(ヴェネツィア・サンタ・ルチーア駅から列車で約2時間のところにある)で行われた第20回ウーディネ・ファーイースト映画祭で観客賞2位を獲ったこと。本映画祭は東アジアの作品中心とした映画祭で、過去には『彼らが本気で編むときは、』(2017年1位)、『モヒカン故郷に帰る』(2016年3位)、『永遠の0』(2014年1位)が受賞している。

本祭は結構社会派の作品が受賞することが多く、実際に今回の受賞結果1位の『1987、ある闘いの真実(9/8日本公開)』は1987年韓国の軍事独裁政権下で新聞記者が、政府の汚職を暴く話だ。また、3位の『The Battleship Island』は軍艦島の炭鉱で強制労働させられている朝鮮人が脱出を図るという内容。社会派と社会派の間にサンドイッチされている中、全く社会派の「し」の字もないゾンビ映画が躍進しているのだ。

ちなみに、本祭出品の日本映画は、映画祭特化ブログ「海から始まる!?」によると、以下の作品が出品されているとのこと。

・『8年越しの花嫁 奇跡の実話』監督:瀬々敬久 
・『孤狼の血』監督:白石和彌 
・『予兆 散歩する侵略者 劇場版』監督:黒沢清 
・『いぬやしき』監督:佐藤信介 
・『モリのいる場所』監督:沖田修一 
・『名前』監督:戸田彬弘 
・『カメラを止めるな!』監督:上田慎一郎 
・『羊の木』監督:吉田大八 
・『彼女の人生は間違いじゃない』監督:廣木隆一 
・『勝手にふるえてろ』監督:大九明子 

なんと、瀬々敬久に白石和彌、黒沢清に沖田修一、吉田大八、大九明子と恐ろしい強敵しかいないではありませんか。しかも、日本では熱狂的人気を持つ作品のエレクトリカルパレード状態だ。しかし『カメラを止めるな!』は、彼らを『新 感染 ファイナル・エクスプレス』におけるマ・ドンソク扮するマッチョおじさんさながらなぎ倒しに倒し、更に他国の社会派を倒したのだ。これを成し遂げたのは無名監督だ。しかも、シネフィルの絶賛ではなく観客賞だ。まさに日本がコロンビアに勝つような事件だ。こんな試合面白くないわけがないでしょう。

↑トークショーでは吉田大八も絶賛していました。余談だが、上田監督は吉田監督の『桐島、部活やめるってよ』に惚れ込み、劇場で数回、ブルーレイを買い20回近く鑑賞、一度は金欠で手放すものの、再度DVDを買い直すほどの『桐島、部活やめるってよ』ファンだ。『桐島、部活やめるってよ』の劇中ゾンビ映画『生徒会・オブ・ザ・デッド』が本作のルーツとなっている。 

5.日本のA24?ENBUゼミナール制作映画だ!

そして是非とも、本記事を読んだら頭の片隅に入れて欲しいのが、この作品が《ENBUゼミナール制作映画》だということ。ENBUゼミナールとは、東京都品川区に構える、映画、演劇の専門学校。映画監督コースでは1年かけて映画を制作し、劇場公開する。卒業生には、先日『寝ても覚めても』でカンヌ国際映画祭コンペティション部門入りを果たした濱口竜介監督や、『花に嵐』『聖なるもの』で密かに注目を集めている岩切一空等がいる。

さて、ブンブンもENBUゼミナール制作は本作の他に一本、今泉力哉監督の『退屈な日々にさようならを』しか観ていないのだが、今回で確信しました。ENBUゼミナール制作映画は日本のA24だと。A24とは、『スイス・アーミー・マン』、『パーティで女の子に話しかけるには』、『グッド・タイム』、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』等変わった傑作を量産する映画会社で、昨年『ムーンライト』をアカデミー賞作品賞に導いたことで注目を集めている。

今泉力哉監督の『退屈な日々にさようならを』も本作も、低予算で大手映画会社は絶対に手を出さないような奇天烈な作品だ。しかしながら、監督の圧倒的作家性を観客に突きつける傑作だ。本作はもちろん今後のENBUゼミナール制作映画も見逃せない。迷ったら観た方が良いシリーズと言えよう。
ちなみに、次のENBUゼミナール制作映画担当監督は柴田啓佑監督と二ノ宮隆太郎監督だ。どちらもインディーズ日本映画クラスタの間では注目されている監督で、前者は『ひとまずすすめ』、後者は『枝葉のこと(現在イメージ・フォーラムにて上映中)』が有名だ。

6.本作は、ゾンビ映画史を変えた!

全然映画本編の話をしていないので閑話休題。

本作が傑作となりえた最大のポイントは、「ゾンビ映画の歴史を変えた」ことにある。ゾンビ映画は大きく分けてジョージ・A・ロメロ路線とバカ映画路線の二つに分類できる。前者は、社会派だ。ゾンビ映画のパイオニアであるジョージ・A・ロメロはゾンビというアイコンを使って社会批判をしていることで有名だ。『ゾンビ』では、巨大ショッピングセンター出現による大量生産大量消費時代を揶揄。『死霊のえじき』では極端な成果主義による悲劇を皮肉っている。『ランド・オブ・ザ・デッド』では強者が弱者を抑圧する現代国家間の事情をゾンビに置き換えている。そこからゾンビ映画に政治的メッセージ社会派要素を織り込む型が確立され、『ワールド・ウォーZ』や『新 感染 ファイナル・エクスプレス』のような作品が登場した。

一方で、純粋にゾンビはゾンビだ!と低予算バカ映画として作られるバカ映画路線も生まれた。『バタリアン』や『サンゲリア』、『インド・オブ・ザ・デッド』などがこれに該当する。後者は大量に生産され、安く消費された。無論、傑作も多く、『バタリアン』や『スペースバンパイア』のようにカルト的人気となって愛されている作品もある。しかし、これらの多くは《バカ映画として》という括弧つきの傑作扱いなのだ。レッテルを逆張り的に崇めているのだ。

さて、本題。本作には1mm足りとも社会派の「し」の字もありません。現に、作中でメタ的にそのことについて語る場面があります。ダメダメ具合に抱腹絶倒するタイプの映画なのだ。ただ、この作品には全くもって《バカ映画として》というシールが見当たりません。《バカ映画》なんか作ってない!監督もスタッフも全力でゾンビを愛して愛して、本気のゾンビ映画を作ってやる!という気概を見せているのだ!

実際に、生ゾンビと遭遇したら人々はどうなるのかを「撮る」。

どれだけ躍動感を出せるのか?どれだけ「笑い」を入れることができるのか?

そこ一点に絞って映画を作った。ふざけは0。本気で面白いゾンビ映画を作った結果、社会派要素0バカ映画感0の前代未聞新ジャンルのゾンビ映画が登場したのだ。これはゾンビ映画史にとって歴史的瞬間といって過言ではないでしょう。

7.アイデアがあれば低予算でも面白い!日本映画界に希望の光を与えた!

今や日本映画、周りを見渡せば漫画、小説の原作ものだらけ。そしてなんでもアイドルが使われてしまう。そして、良い意味でも悪い意味でも、社会派ドラマが賞賛されてしまう。そして、日本の興行収入はコナンやポケモン、ドラえもん、クレヨンしんちゃんといったアニメが支配している。もちろん中には素晴らしい作品もある。『ちはやふる 結び』は上半期のベストテンに入れているし、『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ 拉麺大乱』は歪を極めた傑作カンフー映画だった。今年のドラえもんだってブンブンは好きだ。ただ、それで満足して良いのか日本映画!とこの作品は語りかけてくる。そして、私たちが映画を観に行こうとする動機が、◯◯シリーズだから安定しているだろう。誰々が出ているから観よう。あの監督が撮っているから傑作に違いないという《保険》によるものだということに気づかせてくれる。本作は、確かに、監督はまだ無名だ。役者だって知らない人しかいないだろう。映画だって映画秘宝を買っている人ようなマニアしか行かないような低予算映画。しかし、アイデアで巨人は狩れる!ということを本作は教えてくれるのだ。

そして、金がなく苦しんでいる映画監督に猛烈なエールを送っている。「アイデアがあれば、情熱があれば世界に通用する、普通の映画ファンだろうと辛口シネフィルだろうと一本満足させることができる映画が作れる」と。

これはまさに日本映画界に希望の光といえる!

最後に…

いかがでしたでしょうか?ブンブン言葉足らずですみません。代わりに、超絶解説の上手いモンキーさんとヒナタカさんの記事を載せておきます。

モンキーさん:映画「カメラを止めるな!」感想ネタバレあり解説 こんなに楽しくて笑えるゾンビ映画があっただろうか!

ヒナタカさん:『カメラを止めるな!』を絶対に観るべき8つの理由!ゾンビ映画最高傑作にして大感動ファミリー映画だ!

実は、ブンブン、初週は避けようと思っていた。なんたって、14:40の回を観るために朝一で並ぶの面倒臭いなと思っていたからだ。しかし、意を決して、朝から並んでみてこれが大正解でした。確かに、ネット予約できないような劇場でしか上映していないし、週末は午前中に並ばないとチケットが買えない。しかも、新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサでは割引が少なく(注)、一般だと1,800円と大出費だ。ビビるのも無理はない。しかし、これは有給を使ってでも観た方が良い。地を這ってでも観た方が良い。他の映画10本観るのを諦めて本作を観た方が良い。本作ほど劇場に集まる見ず知らずの人と、一緒にハラハラし、腹筋崩壊級に笑う一体感と高揚感に多幸感を得る映画は少ないだろう。そう、本作は『バーフバリ 王の凱旋』に並ぶ劇場一体型映画なのだ!

これをDVDなんかで観たらワンガリ・マータイもMOTTAINAI!と叫ぶことでしょう。

もう上田慎一郎監督は無名ではない!開花した!次の上田慎一郎作品にも注目だ!、、、なんと!そう言っている側から、7/5(木)より全国のVR THEATER(えっどこにあるのその劇場?VR THEATERの公式サイトで確認できます。)で新作『ブルーサーマルVR-はじまりの空-』が公開されるではありませんか!小沢かなのマンガ『ブルーサーマル-青凪大学体育会航空部-』の映画化で、VRで撮った作品なんだとか。これは気になりますぞ!

ってわけで、ブンブンから、一生のお願い、是非映画館で観てくれ!!

注)一応、どちらの劇場もでは次のような割引があります。
★ゾンビ割り(ゾンビメイク割引):1,500円
★生き返り割り(リピーター割引〈半券提示〉):1,000円

東京都内上映スケジュール(2018/06/24現在)

新宿K’s cinema

6/23(土)〜7/13(金)
・14:40
・16:40
・18:40

7/14(土)以降の情報は新宿K’s cinema公式サイトで!

池袋シネマ・ロサ

6/23(土)〜7/6(金)
・20:45

7/7(土)以降の情報は池袋シネマ・ロサ公式サイトで!

おまけ:パンフレットも良いぞ!

本作を観たら、普段パンフレットを買わないような方もきっとパンフレットが欲しくなるでしょう。800円で販売されている『カメラを止めるな!』パンフレットはこれまた素敵だ。

前から読むと、水道橋博士の熱い感想に始まり、人物関係図、37分ワンカットの導線、主題歌『Keep Rolling』の歌詞、そして制作日記がとてんこ盛りで掲載されている。

一方、後ろから読むと、本作の脚本が載っているのだ。最近のパンフレットはなかなか脚本が載っていないだけに、これはありがたい。裏表紙もカッコ良くって素敵だ。是非、本作を観て気に入ったらパンフレットを買ってみて下さい!

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