【ネタバレ】『オルエットの方へ』ジャック・ロジエ流《ゆるキャン△》

オルエットの方へ(1971)
Du côté d’Orouët (1971)

監督:ジャック・ロジエ
出演:フランソワーズ・ゲガン、ダニエル・クロワジ、
キャロリーヌ・カルチエ、ベルナール・メネズetc

評価:95点

アデュー・フィリピーヌ

』に引き続き、北千住ブルースタジオのジャック・ロジエ特集に行ってきた。今回は2時間半あるとのこと。ガールズトーク2時間半も聞かされて本当に面白いのだろうか。

しかも、原題を確認(Du côté d’Orouët)すると明らかに『失われた時を求めて』1巻のタイトル《Du côté de chez Swann(スワン家のほうへ)》から来ている。ハードなのでは?と身構えていた。

しかし、これが今年ベスト級の大傑作だった。ってことで、これからネタバレありで語っていきます。

『オルエットの方へ』あらすじ

キャロリーヌ、OL。退屈な仕事が終わりバカンス到来!冒険の始まりだ!女子友カリーヌとジョエルと共にヴァンデ県の別荘にやってくる。毎日ダラダラキャピキャピバカンスを楽しんでいたら、キャロリーヌの上司ジルベールが現れる。彼はキャンプをしにヴァンデ県にやってきたのだ。しかし、嵐によって、キャンプできる環境ではなくなりジルベールは助けを求めに彼女たちの別荘へやってくる…

ジャック・ロジエ流《ゆるキャン△》

フランス人にとって、バカンスは生き甲斐そのもの。フランス留学した際、バカンスが近づくと「ブンブンはどこいくの?何するの?」と訊いてきた。バカンスのために仕事を頑張る、学業を頑張る。フランスとはそう言う国なのだ。そして、本作はまさにフランス人のバカンスを象徴するような作品となっている。バカンス直前のオフィスの、ソワソワした空気感をフレームに収めるところから物語は始まるのだ。

ただジャック・ロジエはタイトルに『失われた時を求めて』の引用を入れている。ふと思い出したかのようにプルーストのオマージュをやり始めるのだ。いきなり第四の壁を破り、女が、「この香りを嗅ぐと幼少期を思い出す」と語り始める。しかし、ここでもう『失われた時を求めて』要素は終わりだ。過去や思考実験により生み出される哲学云々も、サロンや美術云々もなく、ひたすらにガールズトーク、ゆるキャンを映すだけに徹している。

そして、このガールズトークとゆるキャンのフルコースが涙出るくらい面白かった。

日本人はバカンスで旅行に出ると、やれ買い物だ、やれアクティビティだと大忙しだが、ここに映る女子ーズは、何もしないのだ。

海があるのに「今日はだりーから外行くのやめない?」と言い始め、干物になったり、「私デブるからカロリー気にしているの。ほらこの本のカロリー表示見てよ!」と言いながらがっつり朝飯を食い、夜にベッドでシュークリームやエクレアを貪り食ったりする。酒も飲んでいないのに毎晩ドンチャン騒ぎ。別荘から出土した《おまる》や木靴にいちいち興奮したり、しまいには「オルエット!オルエット!」って叫びながらダンスし始めたりするのだ。

日本人が考えるバカンスとはかけ離れたアンニュイさ。脚本などないかのようなホームビデオ感に野郎の私はドキドキしてしまう。

キモ粘着M男が現れた!

そして、転機が訪れる。

やあ!

ヒョロ男がエロい目をしながら仲間になりたそうにこちらを見ているのだ。

なんと、女子ーズの一人キャロリーヌの会社の同僚ジルベールだったのだ。

彼は「奇遇ですな。まあなんかの縁だ、シードルでも呑もう。」と迫りよる。明らかにストーカーキモ男だ。そんな彼を女子ーズが弄び始める。ヒョロ男は、最初こそ透かしているが、明らかに緊張しており噛み気味に話す。「オルエット」を「オッオッゴボゴボ」と全く発音できていないぐらい噛み噛みなのだ。またカジノに連れて行こうとしても、カジノ会場が廃墟で、そこでなんとか経験価値を生み出そうとジルベールは頑張るのだが、女子ーズは「J’ai peur, J’ai peur(怖いわ、怖いわ)」と騒ぎ、撤退止む得ない状況となる。全て空回りで追い詰められていくのだ。そして、遂に嵐で彼のゆるキャン会場が粉砕玉砕された時、完全に力関係が逆転するのだ。

女子ーズは徹底的に男を弄ぼうと、塩対応しまくるのだが、このジルベール、M&粘着マン故、しきりに迫りよる。キャロリーヌに振り向いてもらおうと頑張るのだ。しかも、途中でイケメンマッチョなヨットマンが出現し、女子ーズが彼にメロメロとなったことで、彼は嫉妬を抱き始める。果たしてジルベールはキャロリーヌのハートを射抜くことができるのだろうか?

女子ーズVSジルベールのこんな果てしない闘いを、心洗われるような絶景を前に繰り広げられる。すっかり、心奪われた。

鰻との格闘シーンに注目

もちろん、『アデュー・フィリピーヌ』に引き続き、ビザールなミニエピソードも満載。

本作は、やたらと鰻と闘います。劇中20%近くは鰻との死闘で占められる狂った構成に腹筋崩壊する。夜な夜な、海辺に繰り出し、漁師から鰻をもらうのだが、ヌルヌルして気持ち悪い為、バラエティ番組さながらのリアクションで、女子ーズは騒ぐ。漁師の「ほれ!」「朝起きたら、身体を鰻が這っていたらいたらどうする?」などという脅かしに対して、彼女たちがリアクションする。このやりとりだけで5分以上費やす。さらに、鰻を持ち帰って、桶に入れるまでにまた5分近くかかる。そして、ジルベールが鰻を階段にブチまけて、全て鍋に入れて調理を始めるまでに10分近くかけるのだ。ここまでハイライトに鰻を映すとは、今村昌平もビックリだろう。しかも、鰻に《肉欲》のメタファーを埋め込むみたいなこともなく、ただ鰻を映しているのだから面白い。

旅の終わりは切ないもの

ただ、起承転結も崩壊しホームビデオにしか見えない映画『オルエットの方へ』。ラストは胸が締め付けらるほど切ないのだ。これは、バカンスの終わりというサザエさん症候群に近い切なさなのだが、ジャック・ロジエはさらに一歩踏み込んで、失われた時を求める際に抱く感傷的気持ちを捉えた。

終盤、あまりにジルベールをイジリ倒し過ぎて、彼が帰ってしまう。すると、今まで「あのキモ男」と思っていた女子ーズ、急に申し訳ないと思い始める。ジルベールとの日々が楽しかったことを思い出し、それを失ったことによる後悔が押し寄せてくるのだ。旅の終わり、また再び《仕事》という言葉が脳裏を駆け巡り幻滅する気持ちに、もっと楽しいバカンスにできたはずという想いが混ざり合いとてつもなく切なくなるのだ。

そして、急に尻窄みになってしまった旅。決して後味の良いバカンスとは言えないラスト、メトロから降りてパリの街に去っていくキャロリーヌに苦しくなった。

でも、旅とはそんなもの。また仕事が始まると、「次のバカンスどこに行く?」「何をする?」と想いを巡らすところで映画は終わる。そして『オルエットの方へ』は、見事にバカンスとは何かを捉えた傑作になったのだ。

最後に…

って訳で夏休みまであと2ヶ月に迫った今オススメな大傑作でした。土曜日にもかかわらず、観客が10人くらいしかいなかったので、是非北千住ブルースタジオに来て下さい!

【予告】地球の急ぎ方キューバ編

本作の日付文字アートが素敵だったので、ブンブンもバカンス用に作ってみました。次回の地球の急ぎ方はキューバに決まりました。CHE BUNBUNの由来でもあるチェ・ゲバラの面影を探し、また世界遺産のビニャーレス渓谷を堪能していきます。また、時間が合えば、現地の映画館も訪問する予定です。乞うご期待!

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