【ネタバレ考察】『それから』ホン・サンス、ついに5次元マスターとなった。

それから(2017)
The Day After(2017)

監督:ホン・サンス
出演:クォン・ヘヒョ、キム・ミニ、
キム・セビョクetc

評価:75点

カイエ・デュ・シネマがベタ惚れした鬼才ホン・サンス。最低限度の登場人物、やる気のなさそうなカメラワークで物語展開するものの、時系列をいじったり、パラレルワールドを用いたりして観客を異次元に放り投げる作品を毎回放つ監督だ。今回も、例に漏れずカイエがベタ惚れし、2017年ベストテン第5位に本作を入れた。そんな新作『それから』をヒューマントラストシネマ渋谷で観てきたぞ!驚いたことに河瀨直美の『Vision

』より難解な作品でしたので、これからネタバレありで考察を書いていく。

『それから』あらすじ

1ヶ月前に、愛人が出版社を去った。社長は新たにアルムという女を雇う。アルムの出勤初日、社長の妻が出版社に殴り込みに行き、アルムを彼の愛人と勘違いし殴る事件が発生する。その晩、当の愛人が姿を表し…

ホン・サンスは『メッセージ』の言語学者に成り果てた…

本作は、夏目漱石の『それから』からインスパイア受けたと言われているが、もはやそんな気安い次元に留まっていない。圧倒的ホン・サンスのプライベート映画だ。当時、キム・ミニと絶賛不倫中だったホン・サンスが、彼女との思い出を映画に反映。しかも、悲惨な目に遭う主人公をキム・ミニ本人にやらせる全力セクハラ映画になっている。
しかし、キム・ミニもキム・ミニで『夜の浜辺でひとり

』『クレアのカメラ』とホン・サンス映画に連続出演するのだ。クレイジー過ぎる。

そんな私情の塊は、なんとも難解でビザールで魅力的な映画に化けた。

いきなり、クォン・ヘヒョ扮する社長が妻から尋問を受ける場面から始まる。
妻「あなた最近朝早いわね」
社長「最近朝早く眼が覚めるんだ」
妻「あんた…女できたでしょ?」

社長は黙秘権を発動する。うつむきながら飯を食う。「ねぇこっち向いてよ」と妻は言うのだが、息継ぎ程度にしか妻を見ない。修羅場なんだけれども、社長のクズさが滲み出ていて滑稽なシーンだ。

そしてシーンは変わり、いきなりガッツリ不倫シーンだ。そして別れのシーンとなる。

さらに次の場面では、キム・ミニ扮する女アルムが現れる。彼女と社長はすぐに意気投合し、居酒屋で呑み、恋愛観について語り合う。社長が実体のあるものしか信じないと言うのに対し、彼女は噛み付くのだ。そして愛を深めあうも、社長に妻がいることに逆上する。長いディスカッションシーンが終わると、次は彼女の初出勤シーン。どうやら社長に雇われたらしい。ただ、いきなり社長の妻が出版社に殴り込みに行き、アルムを攻撃するのだ。そして、社長を挟んで弁解合戦が始まる。

その夜、社長はアルムを慰めに居酒屋で呑むのだが、そこに彼の元カノが現れる。

ここで、ブンブンは混乱してくる。冒頭、妻が言う「女できたでしょ?」という発言はどの時制の上にあるのだろう。そして、社長と愛人の別れのシーン。愛人が明らかにキム・ミニだった。あの美貌、そして長身っぷり、見間違う訳が無い。でも辻褄が合わなくなってくる。ホン・サンスは執拗に、同じ構図、同じようなセリフを展開する。午前中の停戦会議と同様の構図。社長の妻のポジションをアルムに置き換え、元愛人VSアルムの攻防が始まるのだ。

また、仕事風景が映るのだが、いつの時制だと思ったら、これが社長の愛人だったりする。いくらキム・セビョクとキム・ミニの顔が似ているとはいえ、ここまで見分けがつかなくなると背筋が凍る。

そして混沌の終点に、再びアルムと社長の前半と全く同じシーンが展開される。微妙にセリフが異なり、これは過去か未来か、パラレルワールドか?と思うと、どうやらアルムが出社1日にして仕事場を去ってしばらく経った世界だと気づく。そしてそのまま映画は終わってしまう。

観終わった後、混乱しかなかった。まるで『メッセージ

』に出てきた言語学者のように、時制のない世界観を習得したホン・サンスは5次元を巧みに操り、自身の偏愛を映画に封じ込めたのだ。

結局どんな話しか?

観終わった今、記憶を辿ってもどっちがキム・ミニかキム・セビョクかは判別つかない。一人二役やっていたかもしれないし、そうではないかもしれない。ただ、次のような時系列で話は進んでいたのではないだろうか。

1.愛人と別れる
2.1ヶ月後、小説家志望のアルムが会社にやってくる
3.飯を食い意気投合する
4.正式に雇われ出社する
5.社長の妻に殴られる
6.社長と飯に行くも、元愛人が現れたことで解雇される
7.元愛人は、妻にアルムのことを愛人だと思い込ませるよう社長に言いよる
8.しばらくが経ち、アルムと社長が再会、そして別れる
9.妻に「女できたでしょ」と問い詰められる(冒頭)

台詞回しや、空間の使い方で錯乱させられるが、実際にはシンプルな時系列だったと考えられる。そしてそう考えると、やはりここまで幻影で観客を惑わすホン・サンス監督は、正気の沙汰じゃないなと思いました。

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