【ネタバレ解説】『ピーターラビット』群兎の血が騒ぎ出す傑作!

ピーターラビット(2018)
PETER RABBIT(2018)

監督:ウィル・グラック
出演:ローズ・バーン(渋谷はるか)、
トーマス・マグレガー:ドーナル・グリーソン(浅沼晋太郎)、
ピーターラビット:ジェームズ・コーデン(千葉雄大)、
マーゴット・ロビー(清水理沙)、
エリザベス・デビッキ(木下紗華)、
デイジー・リドリー(下田レイ)etc

評価:80点

あのビアトリクス・ポター不朽の名作『ピーターラビット』がまさかの実写化!しかも予告編を観ると、ピーターがチャラ男過ぎて衝撃!って事で、公開前から話題になっていた上半期重要地雷作『ピーターラビット』を観てきました。配給も、明らかにシネフィル、映画ファンからボロクソに叩かれそうなのを分かっているのか、ウサギ飼いに対して全力で宣伝活動を行なっていたが(後述)、蓋を開けてみたところ意外なことに映画ファンも賞賛の嵐。ブンブンの耳にも賞賛・絶賛の声しか入ってこなかっただけにワクワクしながら観てきました。

幼少期の頃、よく親にピーターラビットのぬいぐるみを買ってもらっていただけに、ピーターには思い入れがある。って事で、今回の鑑賞はお供にピーターのぬいぐるみを持って行きましたw

『ピーターラビット』あらすじ

昭和63年、イギリス地方都市で幅を利かせる暴力団・野獣組。残忍なマグレガーとの抗争は、彼の死をもって終焉を迎えた(享年八十歳)。歓喜に包まれる野獣組だった。しかし、ロンドンで玩具屋ドンの座を狙うも狡兎良狗、組織に消された男マグレガーJr.が進出してきた事で雲行きが怪しくなる。野獣組の組長ピーターラビットは、父親をパイ殺された恨みから、マグレガーJr.襲撃を企てる。そんな中、ピーターラビットの女、ビアをマグレガーJr.が寝取ったことから、本格的な全面戦争が勃発してしまうのだった、、、「ほいのぉ、わしの女になに、手をだしっちょるか!」

※文章が乱れてますが、大体こんな物語ですw

群兎の血が騒ぎ出す…

さて、ピーターラビット好き&ウサギフェチ(昔、飼っていた)である私は鑑賞1ヶ月前、一抹の不安を抱えていた。

↑アナウサギとホーランドロップの違いを見てみましょう

なんたって、ピーターたちが可愛くないし、ベンジャミンがアナウサギからホーランドロップに種族変更されている(例えるならば、日本人という設定をブラジル人に置き換えているに等しい)。

さらにはあの悪名高い『ANNIE/アニー』のウィル・グラック監督作だ。
しかしながら、先日『小悪魔はなぜモテる?!』で、見事な『緋文字』の脱構築をウィル・グラック監督が成し遂げているのを目撃し、これはワンチャンあるのでは?と思った。

そして、まさに大傑作だった。ウィル・グラック監督はまたしても見事な脱構築を成し遂げていた。

いきなり、冒頭で、「教育映画だと思ったでしょ?でも違うよん☆」とメタギャグから始まる。そして、展開されるのは、血で血を洗うピーター一味とマグレガーの仁義なき戦い。本作はポップな色彩と音楽の裏に、文字通り《殺意の塊》をねじ込んだ。観た人は阿鼻叫喚するであろう。狡兎三穴なピーターラビット一味と獅子搏兎な性格のマグレガーJr.の喧嘩が目刺し、感電、急所突き、爆破エトセトラ…東映ヤクザ映画真っ青な程の吹っ切れた抗争に発展していたことに。この1mmの迷いのなさ、陳腐な道徳観などクソ喰らえという意気込みが本作を楽しい、楽しいポップコーンムービーへと昇華させていた。

この手の《”メタ”る》な作品は、最近国内外問わず流行っているが、漫画であれ、アニメであれ、キャラクターがしっかり描きこまれていたり、本筋と関係がなければ、途端に興醒めしてしまう諸刃の剣でもある。

↑『魔法少女 俺』は毛魂一直線の漫画。魔法少女に変身したと思ったら、筋肉隆々の男になっていたり、マスコットキャラクターに当たる人物がヤクザだったりと、魔法少女ものの定石をシニカルに覆していく作風が特徴。今年の四月からNetflix他にて放送されている。

丁度、この前『魔法少女 俺』第5話《魔法少女☆旅行中》で約30分丸ごと本筋と関係ないゴジラとアニメーターの苦悩を煽った回を展開し、視聴者をドン引きさせたように、しっかりギャグと根は関連させる必要がある。

『ピーターラビット』はまさに完璧だ。まず前半のパーティシーンで、各動物の特徴を事細かく描写する。ピーター以外のキャラクターは徹底して原作忠実を目指す。あひるのジマイマやぶたのピグリンは格別のリアリティを誇る。ましてや、サム・ニール演じるマグレガーおじさんの忠実さは群を抜いている。

↑見てください。まるで絵本から飛び出したかのようなリアルさだ

そして、ベンジャミンがアナウサギからホーランドロップに変更されたのも納得がいくようになっている。元々、ベンジャミンはピーターの従兄弟として兄貴面をしていたが、マグレガーに捕獲されかけトラウマを抱えたことから、ピーターに頭が上がらなくなった。本作はその後の世界。ベンジャミンの性格をしっかり描写する為、また三姉妹との差別化を図る為ホーランドロップに種族変更した。ホーランドロップは、食いしん坊で愚鈍さが特徴。そのホーランドロップの特徴を見事ベンジャミンの性格に組み込んだ。無論、原作を知らなくともベンジャミンが本作において大切な存在であることは明確に分かる。しかもそれすらメタギャグとして描いている。

更にはイナズマイレブンにおける五条勝

妖怪ウォッチにおける3兆円

にあたるカルト的人気キャラクター《ピーターのおとうさん(マグレガーおくさんにパイにされた)》もしっかり登場させる。これがジョークではなく、ピーターの怒りを効果的に表現されているのが素晴らしい。

ピーターラビット(TM)日本公式サイトで正式に《ピーターのおとうさん(マグレガーおくさんにパイにされた)》が紹介されている。

そして何と言っても、ヒロインのビア。あれは明らかにビアトリクス・ポターそのものだ。湖水地方で動植物を観察している彼女を投影したものとなっているのだ。ウィル・グラック監督は福田雄一監督ばりにふざけているものの、押さえるツボは確実に仕留める必殺仕事人だということが本作から読み取れます。

ぶっ壊れている、しかし引き締まっている脚本

本作のエンディングについては、賛否が分かれるであろう。特に、もう一人の主役マグレガーJr.目線で映画を観ると非常に変な映画である。おもちゃ屋で暴れた彼は、田舎町でピーターとの死闘の末、ビアとも別かれ、ロンドン帰ってくる。そしておもちゃ屋から再び重要なポストを与えられる。この展開だと、傲慢な独裁者が全く価値観の違う世界でサバイバルをすることで成長し新たなステージに飛び立つという『カーズ』ないし元ネタの『ドク・ハリウッド』さながらのお話になる。しかし、本作はそのルートを潰す。彼はまたしてもおもちゃ屋で暴れ、二度目のおもちゃ屋追放となるのだ。そして田舎でピーター一味と、そしてビアと仲直りし、小さなおもちゃ屋を彼が造るというエンディングを迎える。このエンディングだと、マグレガーJr.がおもちゃ屋に戻るくだりが完全に蛇足となってしまう。

ただ、ピーター目線で観ると少し変わった見方ができる。

実はピーターも傲慢な独裁者だったのだ。王の個人的乱心により勃発した仁義なき戦い。ビアとマグレガーJr.の恋愛に嫉妬を抱き、彼らの情事を破壊しようとした末に、ベンジャミンは死にかけ、自分たちの家はビアの作業部屋と共に消滅した。しかし、ビアはマグレガーJr.だけを責める。ベンジャミンたちもピーターのことは悪く言わない。しかしながら、全てを失った時、ピーターは自分の過ちに気づくのだ。そして成長をしていない愚かな自分を恥ずかしく思う。それ故に、ボロボロに壊れた世界を修復すべく、切り裂いたビアとマグレガーJr.の恋を取り戻すべくピーターはロンドンに行くのだ。

つまり本作はピーター、そしてマグレガーJr.が共に成長することで、長年続いた全面戦争を終結させるという話なのだ。確かに、マグレガーのおもちゃ屋帰還エピソードは蛇足に思うのだが、マグレガーの成長を匂わせつつ一度退場させる展開はあれ以外に思いつかない。仕方がない挿話と言えよう。

確かに、通常の児童向け映画と比べるとトリッキーだ。しかしながら、根幹のテーマはしっかりしている。

日本の宣伝の上手さ


さて、本作は蓋を開けてみれば、コアな映画ファンも普段あまり映画を観ない人も満足させた傑作であったが、公開前は誰もこうなるとは予想できなかっただろう。ロッテントマトでもアメリカ公開時の評価が微妙だっただけに(2018/05/20現在、批評家・一般観客の評価が上りどちらも60%ぐらいとなっている)。そして、一番頭を抱えたのは本作の宣伝担当者だったろう。明らかに地雷な本作は、映画ファンからボロクソに叩かれ遊ばれるのは目に見えている。映画ライターをコントロールするのは容易でも、ブンブンのような試写会に呼んでも忖度することなく、平気で酷評するような過激派ブロガーをコントロールするのは容易ではない(一応、弁解はしておこう。ブンブンは、鑑賞意欲を刺激するような酷評をします。また、できるだけ褒めポイントを見つけるようにしています)。今回、宣伝担当者は確実にヒットさせる為、画期的な方法を編み出した。

それは、ウサギ飼いを狙い撃ちにしたキャンペーン展開だ。カリスマウサギInstagramerのモキュ様を宣伝隊長(moqsama)にし、ウサギ飼いクラスタへの宣伝を強化した。そして#マイラビットを使ったキャンペーンを実施し、『インサイド・ヘッド

』公開時同様、映画のエンドロール後にハッシュタグで投稿されたウサギの写真をスライドショーのようにして流した。それもぽわてぃ(m.p.p.Powhity)や、ぷいぷい(mumitan)といったカリスマウサギInstagramerから普通のウサギまで偏りなく採用した。


また、本作の日本公式Twitterでは、ピーターラビットのぬいぐるみを使った可愛らしい写真を積極的にアップすることで、ピーターラビットファンの興味を惹きつけ用とした。


極め付けは、吹き替えでピーター役を千葉雄大に演じさせ、公開前イベントではウサギとのコラボレーションを積極的に行った。

海外では、既にピーターラビットのプロモーションでカリスマウサギInstagramerを起用しており、ぷいぷい(mumitan)がその代表に選ばれライブストリーミングイベント《BUNNY BOWL》に出演している。宣伝の方は恐らくそれを参考にして行ったと思うのだが、これが素晴らしかった。確かに、『インサイド・ヘッド』の時同様、映画ファンからは苦情が出るだろう。しかし、多少の犠牲を払ってでもああしなければ、客入りは間違いなく今より遥かに下となっただろう。ブンブンも、この手のやり方は映画本来の味を損なう行為なのであまり好きではない。しかし、映画の最後の最後で全く関係のない写真を見せつけた『インサイド・ヘッド』の罪深さと比べたら軽微なものだ。個人的に、日本のソニー・ピクチャーズエンタテインメントの宣伝担当者に拍手喝采を贈るとしよう。

P.S.ウサギって美味しいの?

ところで、本作ではウサギパイが出てくるのだが、果たして美味しいのだろうか?ブンブンは、大学2年生の時にフランス留学した際に、スーパーでウサギのレバーが売っていたので、買ったことがあります。これがあまりに不味すぎて、それ以来ウサギの肉は食べないようにしようと決心しました。

※ウサギ好きが当ページを読んでいる可能性を考慮し、ここでは写真を貼りません。興味ある方は《“Ç”BUN’Sキッチン〜珍味?ウサギのレバー

》の記事を参照ください。

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