【カンヌ国際映画祭特集】『カサバ 町』ヌリ・ビルゲ・ジェイランの長編デビュー作

カサバ 町(1997)
KASABA(1997)

監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:Cihat Bütün,Emin Ceylan etc

評価:80点

自宅からトルコ映画DVDボックスが出土した。トルコ映画100年を記念して、トルコ映画史に残る名作を12本収録したものらしい。トルコの名作映画12本とはいっても、結構最近の作品が多く、また日本人にとってトルコ映画といえば『路』のユルマズ・ギュネイなのだが、彼の作品は収録されていなかったりする。

その中で、ヌリ・ビルゲ・ジェイランの『カサバ 町』が目に留まった。『雪の轍

』でパルム・ドールを取ったヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の長編デビュー作だ。このDVDボックスの中では唯一といっていい、日本で上映されたことのある作品。しかも東京国際映画祭では東京シルバー賞を受賞している。果たしてその中身は…

「カサバ 町」あらすじ

トルコのカサバの町に住む女の子と男の子の目線から見た日常を綴ったドラマ。少女と少年のパートと夜な夜なたき火で大人が語り合うパートの2部構成となっている。

ベルイマン愛を感じる一本

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の長編デビュー作は、まるでイングマール・ベルイマンの作品のようでした。実際に、彼のオールタイムベストを調べたところ、2012年にSight&Sound 主催のオールタイムベスト投票で下記の順位にて投票していた。

1.鏡
(アンドレイ・タルコフスキー)
2.アンドレイ・ルブリョフ
(アンドレイ・タルコフスキー)
3.東京物語
(小津安二郎)
4.晩春
(小津安二郎)
5.抵抗 (レジスタンス) – 死刑囚の手記より
(ロベール・ブレッソン)
6.バルタザールどこへ行く
(ロベール・ブレッソン)
7.恥
(イングマール・ベルイマン)
8.ある結婚の風景
(イングマール・ベルイマン)
9.情事
(ミケランジェロ・アントニオーニ)
10.太陽はひとりぼっち
(ミケランジェロ・アントニオーニ)

こうみると、処女作はジェイラン監督の好きな作品のエッセンスを余すことなく入れ込んでいることが分かる。それでいって陳腐だったり二番煎じではないところが面白い。

物語は2部構成となっており、前半では姉と弟の生活が和やかに描かれる。先生が「んっつなんか教室臭くない?皆弁当出せ!」という下りは、日本の学校でもよくある光景。コミカルです。そう思うと、天井からふんわり綿が降ってくるシーンがあるのだが、あまりの美しいシーンにノックアウトさせられる。小学校の長閑さとあまりにかけ離れた芸術的過ぎるシーンに、そりゃベルリン国際映画祭でカリガリ賞も獲るわなとなる。

さらに、姉・弟が森に繰り出すようになるとこれまたアーティスティックな構図の連続となる。よっぽどベルイマン好きなんだろうと思わざる得ない、自然と人、光と影のコントラストで観る者を飽きさせることはない。劇中ではストーリーはなく、登場人物同士が雑談しているだけなのになんて魅力的なんだ。

後半は大人の世界

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は『昔々、アナトリアで

』や『雪の轍』でもそうだが、政治や歴史、その他たわいもない話を延々とする描写を盛り込んでくる。デビュー作も同様に、後半40分ぐらいは、森で男達がずっと会話しているパートになる。大学に進学し、インテリでバビロンやメソポタミア文明を熱く語る男と、兵士として戦争に行った男のたき火を囲ってのディスカッションを少年・少女の目線から見る。

ふと、ブンブンの幼少期を思い出す。難しくてよく分からないものの、話の内容が気になってしまう感じ、大人の階段の一歩をよじ登ってみようとする感じがよく描けている。前半パートが光とすれば、後半の大人パートは闇となるわけだが、そのコントラストが決定的にブンブンの心を鷲掴みにした。

明確なストーリーこそない。言うなれば監督の幼少期を描いた私小説的映画ではあるがとっても良い作品でしたよ。

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン新作

今回、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映される新作『AHLAT AGACI』は、『雪の轍』に引き続き3時間の超大作だ。文学に情熱を燃やす男が母国に帰り、金策に励むが、借金がのしかかってしまうという内容とのこと。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン映画との相性が良いだけに、日本公開が楽しみだ。

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