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【ネタバレ考察】『モリーズ・ゲーム』2つの文学作品から見出すA.ソーキンの超絶技巧

【ネタバレ考察】『モリーズ・ゲーム』2つの文学作品から見出すA.ソーキンの超絶技巧

モリーズ・ゲーム(2017)
MOLLY’S GAME(2017)


監督:アーロン・ソーキン
出演:ジェシカ・チャステイン、
イドリス・エルバ、ケヴィン・コスナー、
マイケル・セラetc

評価:40点

公開前から、映画ファンの間で密かに話題になっていた作品『モリーズ・ゲーム』。モーグルでソルトレイクシティ五輪を目指していたものの、怪我で選手人生が立たれてしまったものの、ポーカーの世界でFBIも恐る存在にまで成り上がったモリー・ブルーム衝撃の実話の映画化。

それだけでも面白そうなのだが、『ソーシャル・ネットワーク』、『スティーブ・ジョブズ(2015)』の鬼才脚本家アーロン・ソーキンが初監督したことで注目を集めた。第90回アカデミー賞では脚色賞にノミネートされた本作が、ついに日本公開されたので観てきた。町山さんの話によると、台詞量が狂ったことになっているそうだが果たして…

『モリーズ・ゲーム』あらすじ

エリート一家に育った、モリー・ブルームは父親からの厳しい指導の末、モーグルでオリンピック出場目前まで成長を遂げた。しかし、事故による怪我で、オリンピック出場の夢は脆く崩れ去った。大学院の学費も打ち切られた彼女は、セレブ向けポーカーの手伝いをすることで学費を稼ぐようになる。そして、いつしかFBIも恐る伝説のポーカー運営者へと登り詰めていくのであった…

松浦美奈さんお疲れ様!

まず、本作を観た後いわねばならないことがある。

松浦美奈さん、お疲れ様です!

本作は台詞の暴力で字幕翻訳者泣かせの脚本家アーロン・ソーキン作品なのだ。しかもアーロン・ソーキン初監督作故に、台詞量の暴走が激しい。幸運なことにジェシカ・チャステインやイドリス・エルバの英語は聞き取りやすいが、早口&ポーカー用語、法律用語、スキー用語、文学等の幅広いボキャブラリーに常人なら卒倒するレベルの台詞量となっている。

例えるならば、『ソーシャル・ネットワーク』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の1.3倍早口で、1.3倍情報量を誇っているのだ。

なので、日本公開はてっきり冬になるかと思っていた。しかし、松浦美奈の神業で早く公開された。まずは、ありがとう松浦美奈さんと一礼。そして本題に入るとしよう。

劣化版『カジノ』

結論から言おう。

劣化版『カジノ』であった。

アーロン・ソーキンの脚本は良い意味でも悪い意味でも型破りだ。非常に説明的で、到底2時間に収める気がない程の台詞量を盛り込む。そして、『スティーブ・ジョブズ(2015)』のように山場直前で物語るのを止めたりする。脚本としての禁じ手ばかり使うのだが、これが様になっており、彼の持ち味となっている。つまりアーロン・ソーキンは《ヘタウマ脚本家》なのだ。このムチャクチャさが、ダニー・ボイル、デヴィッド・フィンチャー、ベネット・ミラーといったテクニシャンが気合で映像化することで歪な傑作となった。

しかし、アーロン・ソーキンは監督としての腕はなかった。いや、自分の脚本をコントロールできていなかった。

『スティーブ・ジョブズ(2015)』、『マネーボール』、『ソーシャル・ネットワーク』には観客を惹きつける魅力的なショットがあった。膨大な台詞量、トリッキー演出の渦に、魅せどころを仕込ませることで映画に緩急がつき、アーロン・ソーキンの下手さが、脚本の生臭さが解消される。

その防臭作用が今回全く働いていなかった。確かに、ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』やマーティン・スコセッシの『カジノ』を意識した造りになっている。初監督故に、参照元を丁寧に扱おうとする気概が見られる。

ただ、それはあくまで表面を引用しているだけで、技術の真髄まで使いこなせていない。

例えば、『カジノ』を真似て、短いショットを畳み込み、DJさながらのサントラ捌きを魅せようとはしている。ただ、急にディスカッションのシーンになると音楽のことを忘れて、淡々と議論を見せ始める。技術がツギハギに使われることで、作品がぎこちないものになっているのだ。

また、原作が軽妙な語り口で書かれているのに合わせ、本作もジェシカ・チャステインの軽妙な語りで進行する。いかにも第四の壁を破ってきそうだ。折角スコセッシも第四の壁を破る演出をしたことがあるのに、何を迷っているのか、第四の壁の手前で右往左往して終わっている。勇気を出して越えてほしかった。

そして、全体的に画がのっぺりしており、見せ場の強弱がないのが致命的だった。本作を観終わって数ヶ月後、数年後に、「名シーンを思い出して下さい」といわれたら、それは困難だろう。確かに、ポーカーフェイスのハーランが破滅するくだり、モリーがどんな誘惑も突き返し、まるで居酒屋の女将のように振る舞う姿等幾つか見所はある。しかし、どれも、「スコセッシだったらもっとカッコ良く演出できたろうになー」と感じてしまう。画の作り込みがが弱すぎるのだ。

ソーキンの文学フェチが炸裂!

では、本作は駄作か?オススメできないのか?いやいや、そんなことはない。だから私は困っている。

モリーが合法カジノで成り上がる様、そしてモリー逮捕後の法廷劇、この狭間の行間を弁護士チャーリーと共に探すこのアトラクションはサイコーに楽しい。

そして、『ソーシャル・ネットワーク』でマーク・ザッカーバーグの半生を歪め、『華麗なるギャツビー』を隠したソーキンは、本作で2つの文学作品の要素を恐るべき形で本作に隠した。これに気づくと、前半乱雑とっ散らかって見える脚本が必然によるものだと判る。改めて、アーロン・ソーキン狂っていると賞賛したくなる。ってことでその2つの文学作品について解説・考察していく。

その1:『るつぼ(The Crucible 1951)』

アーサー・ミラーがセイラム魔女裁判を元にした戯曲『るつぼ』が、本作において数度言及される。終いには、弁護士がモリーに対して「お前の今の状況は『るつぼ』そのものだ」と言い放っている通り、本作において『るつぼ』は重要なキーワードとなっている。

『るつぼ』とはどういう話なのか。

時は1692年マサチューセッツ州セイラム。美少女アビゲイルは仲間と黒人奴隷のティテュバと神に背くがごとく全裸で踊っていた。それに不満を抱いた村の有力者パトナム夫妻が彼女たちを非難することで、段々と魔女狩りに発展していく。そして無実の人が処刑されていく中、アビゲイルが聖女として祭り上げられていく。アビゲイルと不倫関係にあるジョンは、魔女狩りを止めるべく暗躍するが、アビゲイルに裏切られて投獄されてしまう。そして、処刑前夜、判事から仲間を売るよう説得され、ジョンは思い悩む…という内容。

1951年当時、赤狩りが盛んになっており、倫理的に凄惨な仲間と命を天秤にかけた説得が横行していたことに対してアーサー・ミラーが批判した戯曲である。

本作において、モリーはFBIが喉から手が出るほど欲しい膨大な機密情報を抱えているにも関わらず、しきりに機密情報を守ろうとしていた。どんなに、周りのスターが破滅したり、ヤクザの抗争が勃発しようとも決して顧客情報を提出しないスタンスを彼女は取っていた。弁護士は、物語前半、彼女の非協力的姿にフラストレーションが溜まっていたが、見逃すことのできない大金を手にできるチャンスを横目にスルーしていたことに勘づき、彼女の弁護を全力で行うことを決意する。『るつぼ』の複雑な人間関係の淵でもがくジョンにモリーを照らし合わせ、彼女から重要な情報を引き出そうとするのだが、なかなか引き出せず、その苛立ち故に、「お前の今の状況は『るつぼ』そのものだ」という言葉が放たれた。

つまり、本作におけるモリーは争乱の渦中であり、一歩離れた場所から自分の倫理観を見つめ直していく話となっているのだ。そして、グチャグチャに絡まったケーブルを解くかのように、それを弁護士と一緒になって救っていく話となっている。

ちなみに余談だが、この『るつぼ』は1996年にダニエル・デイ=ルイス主演で映画化もされています(タイトルは『クルーシブル』)

その2:『ユリシーズ(Ulysses 1922)』

本作の主人公モリー・ブルームは奇遇なことに、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』に登場する浮気妻と同姓同名である。恐らく、原作はそこまで『ユリシーズ』について意識していないと思う。しかしながらアーロン・ソーキンは、この偶然に引き込まれた。本作全体を通じて『ユリシーズ』を展開する離れ業をやり遂げた。

『ユリシーズ』とは、ホメロスの『オデュッセイア』をたった1日の出来事に凝縮した作品だ。『オデュッセイア』とは英雄オデュッセウスがトロイア戦争から帰還する途中に、ポセイドンの怒りによって10年以上に渡る地獄旅に付き合わされるという内容だ。『ユリシーズ』では、『オデュッセイア』のキーワードをあらゆるところに隠しながらも、中年男ブルームが妻モリーの浮気をきっかけに、思い悩み街を彷徨う。途中、娼家街でフルボッコにされている教師スティーブンを救ったりしながら、波乱万丈な1日を送る話に置き換えている。

多分、アーロン・ソーキンはモリーがもし男だったら、主役の名前をレオポルド・ブルームにしたかったのではないだろうか。

不慮の事故で、オリンピック出場の夢は閉ざされ、親からは資金援助を打ち切られたモリー・ブルーム。まさにオデュッセウスさながらの地獄行きだ。優秀すぎる弟を前に、二流というレッテルを貼られてしまい、劣等感の塊だったモリーはなんとかして大金持ちになろう。親に認めてもらおうと奮闘する。そして、モーグル時代に培ったスポーツマンシップの心故に、絶対にズルはしないぞと決め込む。アメリカでは、カジノを運営する際、手数料を取ると違法になるとのこと。だから、チップだけで稼ごうとする。違法の温床である、ドラッグや参加者との情事も徹底的に避けようとする。もし、自分に求愛してくる輩がいようものなら、「あなたの人生破滅するよ。ゴシップが出ただけで何億ドルもの損失が出るよ。そんな価値のある女ではないよ」となだめる。

賭けが暴走し、参加者が破産しそうになれば、まるで居酒屋の女将のように、「もう帰りな」と促す。徹底してフェアなゲーム運営を目指す。

しかし、次々と起こる修羅場。何度も裏切られる不条理な世界が彼女の心を打ち砕かんとする。

この地獄のような日々、親に認めてもらいたい一心で努力してきたからこそ、ラストの父親との和解シーンが活きてくる。

ラスト、スケートリンクで父親と遭遇したモリー。彼女の努力を認めた父親は、恐らく裏工作をしたのであろう。判事に耳打ちをしたことで、判決が軽微なものとなり事実上勝訴となった。まさに、ポセイドンの怒りを鎮めた瞬間と言えよう。

最後に…

本作は、正直マーティン・スコセッシ監督で撮って欲しかったくらい惜しい作品であった。面白いし、脚本の奥行きの深さには感動した。特に、『ソーシャル・ネットワーク』以上にアーロン・ソーキンの文学的洞察力の高さには舌鼓を打った。

それだけに悔やまれる作品だ。しかし、これはアーロン・ソーキン監督1作目。デビュー作がこれなら、恐らく次回作は大大大傑作に違いない。それだけに、ブンブンは期待して彼の次回作を待ちたいと思う。

多分次回作も台詞量が多くなるであろう。アーロン・ソーキン映画の字幕翻訳者を全力で応援したくなりました。

今回は本当に松浦美奈に感謝感謝でした。

P.S.原作は英語の勉強にオススメ


先日、オーストラリアの友だちが日本にやってきたので、呑みにいった。毎回、オーストラリアの映画館で配布されているチラシをいただくのだが、『モリーズ・ゲーム』のチラシが面白かった。日本では、漫画原作映画を観る際によく原作者書き下ろしのミニ漫画が配られる。オーストラリアでは原作小説の一部が配られることがある。『モリーズ・ゲーム』のチラシがまさにそれだったので、読んでみました。英検2級のポンコツブンブンでも意外にスラスラ読めました。映画同様、モリーの軽快な話し言葉で進むので、多少の専門用語や多めの登場人物の壁さえ乗り越えればラノベ感覚で読める。なので、英語の勉強をしたい映画ファンは、原作を洋書で挑戦してみるのはどうでしょうか?きっといい勉強になることでしょう。

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