【カンヌ国際映画祭特集】『ユマニテ』目つきがヤバい!3冠を獲得したブリュノ・デュモン映画

ユマニテ(1999)
L’humanité(1999)

監督:ブリュノ・デュモン
出演:エマニュエル・ショッテ、
セヴリーヌ・カネルetc

評価:80点

カンヌ国際映画祭いよいよ始まりました。それに合わせてMUBIではカンヌ国際映画祭関連作品が配信。なんと、第52回カンヌ国際映画祭でグランプリ、男優賞、女優賞の3冠に輝いた『ユマニテ』がアップされてました。

この年は審査員が、デヴィッド・クローネンバーグ、アンドレ・テシネ、ジョージ・ミラー、ジェフ・ゴールドブラムetcと曲者が多く、その結果、パルムドールが『ロゼッタ』、審査員賞が『クレーヴの奥方』、監督賞が『オール・アバウト・マイ・マザー』、そして脚本賞が『モレク神』と変わり種ばかりだった。そして、その中のキング・オブ・ビザールが『ユマニテ』だった。実際に観てみると、これがトンデモなかった…そして、ブリュノ・デュモンの原点だった…

『ユマニテ』あらすじ

フランスのバイユールで少女強姦事件が発生した。ファラオン・ド・ウィンテルはこの事件を担当することになったがやる気がどうも出ない。実は彼は近所に住む女性ドミノに恋心を抱いていたのだ。ドミノはそんな彼を挑発するかのように、目の前で恋人ジョセフとイチャつく。不穏な空気が彼らの前に漂うのであった…

ブリュノ・デュモンの原点

本作は、ブリュノ・デュモンの原点とも言える作品だ。後の『プティ・カンカン

』の原石がそこにはあった。本作は、刑事物にも関わらず事件解決なんか興味がないような物語展開をする。刑事物なのに、事件をマクガフィンにしてしまっている作品だ。そして、閉ざされた場所に停滞する事件によって生じた不穏な空気を通じて野生になっていく人々をブリュノ・デュモンは丁寧に剥いていく。

ブレッソンとアケルマンを意識して…

本作はブリュノ・デュモン長編2作目。まだキャリアの浅かった彼は、恐らくロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』とシャンタル・アケルマンの『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン

』を意識して本作を撮った。

前者は、田舎に赴任してきた司祭が、閉鎖的な村の人々から嫌がらせを受け、段々と神が信じられなくなってくるという様を淡々と描いた作品。後者は、主婦の家事を3時間半近くかけて描く実験映画だ。

『ユマニテ』は、純粋無垢な警察官ファラオンが閉鎖的な村人の野蛮な生活を見て心を痛める様子を2時間半に渡って描く作品だ。いきなり、ファラオンが荒野を歩き、そして糞溜まり、あるいは泥溜まりに顔から突っ込むところから物語は始まる。泥に突っ込もうとも、ほとんど瞬きをしないファラオン。魂が抜けてしまったかのような表情を、乾いたタッチでフレームに収まる。

彼は、少女強姦事件の捜査を担当するのだが、どうもやる気が出ない。近所の女に想いを寄せているからだ。しかし、彼女には彼氏がいて、いつもイチャついてくる。しかし、何故か自分の前で煽るようにイチャつき、更には彼氏とのデートに自分まで誘ってくるのだ。コミュ障のファラオンは困惑する。町のバーでは、パリピが暴れており、他の客にまで迷惑をかけている。警察署の上司は、高圧的な態度で少女に尋問を始める。

血が濃く、居心地の悪い空間に、ファラオンは心を痛め、でも心の拠り所がなく、もがくしかない…

ブレッソンの『田舎司祭の日記』に出てきた司祭のように、心に苦しみを背負ったまま、粛々と毎日を過ごす様子は現代の日本のサラリーマンも共感するところではないだろうか?

↑(上)アケルマン(下)デュモン キッチン配置は明らかに合わせています。

↑ジャガイモ剥くシーンもあります

ブリュノ・デュモンは、ブレッソンの乾いたタッチに、シャンタル・アケルマンの『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』の長ーく退屈な世界観の要素を盛り込むことで、徹底的に息苦しさを物語に封じ込めた。そして、観客は気づく。特に、息苦しいコミュニティにいた人なら。ファラオンの方が人間らしいのではないか。バイユールの人々が瞬きをするのをやめ、何を考えているのか読めなくなった時、あれは組織に溶け込めなくなった時の自分だと。

本作が、3冠を獲ったのも納得だ。フランスの映画監督なら、授業で教科書のように習ったであろう『田舎司祭の日記』の骨組みをほとんどそのまま起用しつつ、素人役者を起用し、隠し味にアケルマンを添えることで強烈かつ普遍的世界観を表現した。これはトンデモない傑作であった。MUBI契約者は、是非挑戦あれ。

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