【ネタバレ酷評】『クソ野郎と美しき世界』山内ケンジ×香取慎吾編だけが救い

1.『ピアニストを撃つな!』

監督:園子温
出演:稲垣吾郎、浅野忠信、馬場ふみかetc

『ピアニストを撃つな!』評価:0点

↑『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』予告編

↑タイトルの元ネタ『ピアニストを撃て』予告編

最近、スランプでシヌフィルのサンドバッグになっている園子温最新作。前作『ANTIPORNO』ではファスビンダーの『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のパクリみたいな作品を作った。今回はタイトルからして煽ってきてます。おい!園子温、トリュフォーを愚弄するな!と言いたくなる。

しかし、中身は伝説のクソ映画『幻の湖』のパクりだった。『幻の湖』とは1982年公開の東宝創立50周年記念映画。監督は『砂の器』、『八甲田山』の脚本家である橋本忍。にも関わらず中身は3時間近くかけてソープ嬢が走って走って走りまくる難解映画で、公開当時大コケしたものの、あまりのぶっ飛び具合にカルト的人気を得た作品だ。

その伝説のクソ映画をパクることで、本作を貶すこと行為をバカにする作りとなっている。「鼻から真面目に作ってないよ。貶すだけ無駄だよ。後でカルト的人気を博しても知らないよ。」と言わんばかりの作りに辟易とした。これはトリュフォーにも、『幻の湖』にも、映画ファンにも失礼だ。

しかも、園子温映画恒例のキテレツキャラクターが全て記号でしかない。特に浅野忠信扮する嗅覚が犬の1000倍鋭い男。嗅覚が鋭すぎてガスマスクをつけているという設定だ。立ち振る舞いから圧倒的存在感を魅せているにも関わらず、こともあろうかガスマスク外して走っているではないか。確かに、フジコというフェロモンにメロメロになっているからガスマスクを外しているのだが、その説明描写が弱い。いや、この設定が強烈すぎてそもそも脚本として破綻している。

園子温は確かに、『愛のむきだし』周辺の黄金時代に悩まされている。過去に囚われた男だ。ブンブンもあの時代に囚われてしまっている。お互いに辛いのはわかるが、もうそろそろ傑作を生み出して欲しいものだ。

2.『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』

監督:山内ケンジ
出演:香取慎吾、中島セナ、古舘寛治etc

『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』評価:80点

こちらは掃き溜めの様なオムニバスにキラリと輝く傑作だった。山内ケンジは東京国際映画祭で上映された『友だちのパパが好き』『At the terrace テラスにて』でインディーズ邦画クラスタを熱狂させた、今注目の監督だ。しかも、音楽に『プールサイドマン

』の監督の弟・渡辺雄司が起用されているのだ。まさに東京国際映画祭チームが手がける香取慎吾映画といったところ。

山内ケンジ映画は初めてだったがこれが面白い。画家・香取慎吾と歌喰い女が交差するまでが非常に良くできており、ワクワクニヤニヤが止まらない。それこそ、歌喰い女の正体が分かるまでが面白い。冒頭、ゴミ捨て場に佇む歌喰い女。サラリーマンが絡んでくる。「お腹すいた」という。そしてフッと消える。次のシーンでは何故か、路上コンサートを眺めている。歌手が歌おうとすると、「えっなんで?」と暴れ出す。なんだこれは?と思う。次のシーンで音楽バーのシーンが映し出された時に、女の正体に気づき、同時に「香取慎吾をどうやって使うのだろう?」と好奇心が掻き立てられる。そして香取慎吾と歌喰い女が出会った時にパンクなビッグバンが起こる。それは、本作が「女の子のうんこを食べる映画」だということだ。

山内ケンジは《新しい地図》とは何なのかを深く理解している。SMAP時代。アイドルの鏡として、様々な柵に囚われ、汚れなことはできなかった。それが香取慎吾という人気者に、今回映画初デビューの新人女優中島セナのうんこを食べさせるというテレクラキャノンボールもびっくりなタブーを冒させることで、《新しい地図》のSMAP時代に対するプロテストを象徴させているのだ。しかも、文字面だけ見ると非常に下品で、反吐が出そうなもの。それこそSMAPファンもとい香取慎吾ファンは暴動を起こすレベルの内容なのだが、これが不思議と不快にならないのだ。

これは一本取られました。

さらに山内監督は中島セナを魅力的に撮るではありませんか。私が映画監督なら、自分の次回作に彼女を使いたい!と思う程良い表情を撮りまくる!薄幸そうだか、どこかCUTEという文字を宿したフェロモンを秘めている感じが、ファム・ファタールの演出としてよくできている。

もちろん、香取慎吾の扱い方もわかっている。コミカルでチャーミングな彼の笑顔には私もメロメロだ。

このエピソードだけ大傑作であった。

3.『光へ、航る』

監督:太田光
出演:草彅剛、尾野真千子、新井浩文etc

『光へ、航る』評価:20点

クサポンファンの私は、爆笑問題・太田光にクサポン映画を撮らせたことに憤りを感じた。お笑い芸人が映画を撮って成功した例は数少ない。それ以前に、コント/漫才と映画の作りは、短距離走と長距離走で使う筋肉が違うように似て非なるもの。太田光は森田芳光脚本の『バカヤロー!4 YOU! お前のことだよ』の第1話「泊ったら最後」くらいしか撮ったことがない。しかも、不安だったのは、彼は映画好きだということ。それも好きな映画監督が、如何にも映画サークルに入っていそうな人が言いそうなラインナップ。黒澤明に、テリー・ギリアム、チャールズ・チャップリンetcだったので、これは不味いのではと一抹の不安を覚えた。そして、その予想は的中。最悪の映画だった。

一言で言うならば、短編映画コンペに出品される審査員泣かせの映画。長い、つまらない、ギャグは自己満足、無駄に政治的、下手な名作オマージュを披露するダメダメ映画のロイヤルストレートフラッシュだった。

草彅剛扮するヤクザな男が行方不明の息子を追うという内容。冒頭の草彅剛のヤクザっぷりは、『任侠ヘルパー

』を思わせるキレがあった。しかし、ヤクザモードのクサポンに下手にギャグをやらそうとするから、臭い演技に見えるではありませんか!

しかも、『ストレンジャー・ザン・パラダイス

』の真似事までやりはじめる。イタイイタイ!太田光よ、ジャームッシュをやるのは100年早い。何人もの大学生がジャームッシュを真似して痛い目に遭ったことか(ブンブンもその一人だが)。ジャームッシュは気安く真似をしてはいけないのに、彼はやってしまい、そして寒くダサいヴィジュアルが大画面を支配してしまった。

芸人映画としては、フレームの作り込みこそまあまあ上手いが(ジャームッシュオマージュは許しません!)、いきがっている大学生映画レベルの作品でした。

そこは『中学生円山

』のクドカンやMR.一本満足こと石井克人にやって欲しかった。

4.『新しい詩(うた)』

監督:児玉裕一
出演:クソ野郎★ALL STARS

『新しい詩(うた)』評価:15点

UNIQLOCKでカンヌ国際広告祭を制し、サカナクションの『ネイティブダンサー』のMVを作った映像クリエイター児玉裕一映画初監督作。
最近も、かんぽ生命のCM『子どもたちが見ているこの国の未来』や水曜日のカンパネラの『ラー』のMVを手がけるなど、今やエンタメ業界を代表とする映像クリエーターだ。

そんな彼は今回、前3話のおさらいをミュージカルで演出するのだが、PV、MVと映画を履き違えており、物語ることを放棄してしまう大失態を犯していた。歌に合わせ、それぞれのエピソードの《その後》やネタバラシが行われるのだが、事務的に各エピソードを繋ぎ合わせているだけで、ミュージカルシーンも、ソシャゲか何かのCMかなと思う程。児玉裕一は煌びやかな映像魔法を得意としているのだが、それも表面的で、ただただ目くらましにユニークなキャラクターを出しては引っ込めを繰り返すのみ。

まあマネキンチャレンジをやらせることで多少のカタルシスはあるが、これは映画ではない。これも太田光同様で、CMと映画が短距離走と長距離走の関係レベルに似て非なるもの。ヴィジュアルだけで押し通せると思うなと言いたい。

最後に、、、

これは映画ファン程オススメしません。腹を壊す程、あまりの酷さに体調を崩します。実際に、ブンブン園子温パートで腹がキリキリと痛くなり、若干苦行でした。当然ながら今年のワースト候補です。なんせ今週は、『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル

』に『ラブレス

』、『ワンダーストラック』と注目作が目白押し。SMAPに思い入れのない映画ファンは当たり屋するのではなく、他の作品を観た方がいいでしょう。ただ、山内ケンジの作品だけは大傑作だった。これだけは救いでした。

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