【ネタバレ解説】『ダウンサイズ』期待したものはないが期待以上の面白さはある

ダウンサイズ(2017)
Downsizing(2017)

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:マット・デイモン、クリステン・ウィグ、
クリストフ・ヴァルツetc

評価:60点

今週は、映画ゴールドラッシュ!アカデミー賞作品賞最有力『シェイプ・オブ・ウォーター

』、ワンカット撮影のとんでも映画『アイスと雨音』、カンヌが発狂したヨルゴス・ランティモス最新作『聖なる鹿殺し』、ミヒャエル・ハネケの冗談(?)『ハッピーエンド』と沢山の話題作が公開されている。その中で、とんでも地雷作品が2本公開された。一つはクリント・イーストウッドが15時17分パリ行き列車で起きた銃撃事件の関係者を集めて作った『15時17分、パリ行き』。もう一つは、ロード・ムービーの巨匠アレクサンダー・ペインが何故か手がけたSF映画。それもウルトラQ『1/8計画』

とそっくりな作品『ダウンサイズ』だ。この二つは、巨匠の作品にも関わらず、アメリカでは酷評され、前者は批評家、一般観客評がロッテントマトで実写版『ピーター・ラビット』、『メイズ・ランナー3』よりも低いという結果になっていた。後者は、批評家評は51%と賛否がぱっくり二分され、一般観客評は23%と不評であった。

今回紹介するのは後者。想像と全く違う作品に困惑しました。ここからはネタバレ全開で語っていきます。

『ダウンサイズ』あらすじ

人口増大、環境破壊に頭を抱えた研究者は長年の研究の末、人類を縮小する方法を編み出す。それから10年近くがたち、縮小化が一般普及して来た。平凡な男ポール・サフラネックは妻オードリーと全財産投げうって縮小することにするが…

事件:期待していたものが全くなかった!

本作が酷評された理由は明確だった。期待していた展開が全くないのだ!この映画を観にくるような人は、『1/8計画』のようなブラックな話を期待するだろう。またどうやって小人の世界を演出するのかという特撮面も気になるだろう。ブンブンももちろんそれを期待して観に行った。ユートピアだと思っていた小人の世界が、何らかのトラブルで管理者が機能を止めてしまったが故に地獄と化し、縮小化は巨額な富と引き換えに自由を失うことだと気づくといった内容だと思っていた。もしかすると、縮小化を土壇場で諦め逃げた妻とマット・デイモンが再会し、セックスを通じて縮小化がいかに人間性を失うことかに気づくという展開もあるかも、と変態的なアイデアが頭の片隅をよぎったりもした。しかし、よくよく考えてみてください。監督はアレクサンダー・ペイン。山田洋次のような人情派監督だ。そんな映画を撮るはずがなかった。

確かに冒頭30分は『1/8計画』のように、縮小化をするかしないかという苦渋の選択からの手違いという物語運びになっている。しかし、普通の人から見た小人、小人から見た普通の人の構図は前半30分で終了。あとは全く普通の人が出てこず特撮を魅せてくれないのだ。そして、相対的に巨大化した虫や鳥、その他動物が襲いかかってくることなく、それ以前に存在すらほとんど出てこない。あるのは、知的な思考実験と常軌を逸した物語展開のみだった。この裏切りに観客がいかにノレるかが評価の分かれ目になっていると言えよう。

ではブンブンはどうだったか。

正直、ちぇ!と舌打ちしたくなったし、物語としても散漫すぎる気がした。だが、観ていくうちに段々面白く感じた。本作は、縮小ものとして画期的な映画だとさえ感じた。

縮小ものの常識を変えた

縮小ものと言えば、『ミクロ・キッズ』や『アントマン

』のように相対的に巨大化したものと戦うイメージが強い。そして『1/8計画』や『縮みゆく人間』のように《縮小》を《社会的地位の失墜》のメタファーとして描くことが多かった。

本作は、《縮小》という現象を徹底的に深掘りし、未開の地へと観客を誘う。

まず《縮小》するとどうなるのか?ということを提示する。180cmから13cm、およそ14分の1に縮小するとゴミの排出量も14分の1になるが、経済活動も14分の1になる。すると不動産価値が暴落し、経済的混乱を生む。また、人類プロジェクト故に縮小された人間は税金を払う必要がなくなるが、それに対し、普通の人間から不満の声が生まれる。経済活動に貢献していない奴に選挙権を与えていいのか?と。

また、《縮小》が普及すると、犯罪者を本人の承諾なしに縮小化したり、スパイ活動として悪用されたりする。そして、ユートピアだと思っていた小人の世界にもスラム街ができる。

かつてここまで《縮小》について思考実験した作品があったでしょうか?

そして面白いのが、この思考実験の末に到達するのが、資本主義と社会主義を超えた世界だというところ。元々、行き過ぎた資本主義により環境が破壊されていることへの対策として縮小化が提唱された。小人の世界は、税金を払う必要もないし、食料に困ることもない。適度に働き、あとは遊ぶ生活。皆平等な社会。つまり小人の世界は社会主義体制なのだ。しかし、物語が進むと、小人は仕事も怠け、毎日遊びまくる、デカダンスな生活を送っていることがわかる。典型的な社会主義批判がここにある。主人公のマット・デイモンは、その退廃な生活に飽き飽きしていたところ、ベトナム人の掃除婦と出会う。サイコパスレベルに言動が鬼畜な彼女に導かれたどり着いたスラム街で、段々と彼は自分らしい人生を見出していく。お金にも承認欲求にも縛られない新人類の生き方を見つけ出していくのだ。

衝撃のラスト

この映画の思想は未来過ぎた。というのもラストの展開が常軌を逸しているからだ。縮小化計画が進まず、ついに人類滅亡のカウントダウンが秒読みに入ったといきなり知らされるマット・デイモン。彼は、縮小化計画の第一人者から地下シェルターの存在を教えてもらう。人類滅亡から逃れることができる地下シェルターで生きるか、それとも地上で人類滅亡の瞬間までベトナム人女性とスラム街の人々を救うのかという選択を迫られる。多くの人は前者を選ぶであろう。人類を再度繁栄させる偉大なるプロジェクトだし、あの自己中心的なサイコパス女についていくメリットがないように見える。しかしマット・デイモンは何故か後者を選ぶのだ。

そして、普通の人がいなくなり、管理されていない小人の世界が映し出される。天井を覆う屋根は破損し、大雨が降るなか、マット・デイモンとベトナム人は今日もスラム街の人々を救っていましたTHE ENDとなる。

度肝を抜かれましたねー。

最後に…

本作は、正直観客を悪い意味で裏切る駄作であることは否めない。ただ、、、妙にこの映画嫌いにはなれないのだ。むしろメチャクチャ面白かった。アレクサンダー・ペインの知的な洞察力に、クレイジー過ぎる人情ドラマ。これは10年後ぐらいにカルト映画になっているのでは?と感じた。

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