【ネタバレ】『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』S・コッポラ『白い肌の異常な夜』まさかのリメイク

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ(2017)
The Beguiled(2017)

監督:ソフィア・コッポラ
出演:ニコール・キッドマン,キルスティン・ダンスト,
エル・ファニング,コリン・ファレルetc

評価:50点

日本ではポルノ映画として公開されたクリント・イーストウッド主演作品『白い肌の異常な夜』をなんとソフィア・コッポラがリメイク(一応公式では否定されている)。リメイク映画、女性監督映画にも関わらずカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した異色作だ。

『白い肌の異常な夜』は、高校生ぐらいの時にタイトルに惹かれて観て、ラストに驚愕した傑作。それだけに不安でした。果たして…

※本記事は結論について触れているネタバレ記事です。

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』あらすじ

時は南北戦争。アメリカ南部の男子禁制女子学校に、負傷した北軍兵が運び込まれる。憐れみから、その北軍兵を匿うことになるのだが、男を知らぬ女達は次第にその北軍兵に惹かれていき…

『白い肌の異常な夜』と比較するなかれ

結論から言おう。これはイーストウッド版を意識して観てはダメだ。そもそも本作は9割型ストーリー展開が一緒なので、イーストウッド版を観ている者にとって驚きは皆無だ。ただ、本作はイーストウッド版を無視して観ても、残念ながらソフィア・コッポラワースト映画であった。

ソフィア・コッポラの作家性

まず、本作を語る上でソフィア・コッポラの作家性が重要となってくる。ソフィア・コッポラはフランシス・フォード・コッポラの娘。ブルジョワ一族の一人だ。彼女は幼少期から感じ取っていたブルジョワのデカダンスを一貫して描いている。

『ロスト・イン・トランスレーション』や『SOMEWHERE』の様にストレートに描いている作品もあるが、『ヴァージン・スーサイズ』や『マリー・アントワネット』の様に婉曲的に描くこともある。ただ、いずれにせよ根幹は一緒だ。
その作家性故に、『マリー・アントワネット』では、我々一般ピーポーが観たいマリー・アントワネットのクズさ傲慢さを否定する演出はなく、寧ろ肯定的に描かれていた。また劇中にロックミュージックを挿入する場面では歴史観の面で批判を受けた。

そう、ソフィア・コッポラは歴史的正しさや事実関係よりも自分の内面の具現化を優先する監督なのだ。故に本作は南北戦争という時代背景が完全に死んでいる。これはソフィア・コッポラに甘い私にとって許容範囲だ。『白い肌の異常な夜』とも殆ど内容が同じなので、あの傑作と比較するのもやめておこう。私はソフィア・コッポラに甘いので。

どうしたソフィア・コッポラこの脚本は!

しかし、これだけは言わせてほしい。脚本が酷い。いくらなんでも状況を説明する台詞が多すぎる。冒頭いきなり、少女が森で北軍負傷兵を見つけ、「北軍は怖い」なんて言い始める。大人の女性ならまだしも、純粋無垢な少女がいきなり負傷兵が敵軍だと察し、それを声に出すとは如何なものか?

こんな調子で、行間を説明台詞で埋めまくる。終盤、毒キノコで北軍兵を毒殺しようと企てる場面。ヴィジュアルで彼女たちが負傷兵に何をしようとするのか分からせる演出ができただろうに御丁寧にも説明してしまう。

「特別なキノコを持っておいで、そうよ特別な」

この台詞は正直必要ない。折角、前半部分でキノコを魅せる場面があったのだから、台詞でもし言わせるのであれば、「キノコを持っておいで、白い斑点のついた」というようにした方が、毒殺場面で観客に驚きを与えることができるであろう。まあ、そもそもキノコのシーンは要らない。毒殺のシーンだけで十分な筈だ。

ソフィア・コッポラは台詞に頼らず、空気感で行間を作り出す名匠だと思っていただけにがっかりでした。

濡れ場を魅せないもどかしさ

その癖、濡れ場や暴力シーンはなかなか魅せない。なんともどかしいことか。本作の軸は外から入り込む異物により、調和が乱れること。それ故に、濡れ場や暴力シーンはしっかりと魅せる必要がある。それを、焦らしに焦らし、中途半端な状態でしか魅せてくれないので全体的に消化不良で終わってしまう。

ただ、エル・ファニングファンとしては彼女の夜這いシーンはサイコーでした。そのシーンだけ、コリン・ファレルと入れ替わりたいと思いました。それにしても『SOMEWHERE』であんなに幼かったエル・ファニングが、大きく成長し、しかも人間離れした美しき女性へと昇華したことは本当に嬉しい。そんな彼女がエドガー・ドガを思わせる画の中で自由に動き回り男を魅了している姿を観られたのは本当によかった。

Elle est une déesse…(エル/彼女は女神だ)

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