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【ネタバレ解説】『スリー・ビルボード』アカデミー賞作品賞当確?VOD時代を象徴する傑作

【ネタバレ解説】『スリー・ビルボード』アカデミー賞作品賞当確?VOD時代を象徴する傑作

スリー・ビルボード(2017)
Three Billboards Outside Ebbing, Missouri(2017)


監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド、
サム・ロックウェル、
ウディ・ハレルソンetc

評価:75点

第90回アカデミー賞、今年の作品賞を獲りそうな作品。『スリー・ビルボード』がようやく日本でも公開された。原題は、『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri(ミズーリ州エビング郊外の三枚看板)』、アメリカ人でも言いにくいタイトルなのだが、これがヴェネチア国際映画祭で脚本賞を獲り、トロント国際映画祭で観客賞を獲るやいなや、アカデミー賞受賞コースを猪突猛進進んでいる。アカデミー賞は、脚本賞か脚色賞を受賞した作品が作品賞を受賞する伝統がある為、今年は『スリー・ビルボード』が作品賞を受賞すると思われる。

とは言っても、ブンブン、この映画観る前まで不安でした。何と言っても監督はマーティン・マクドナー。毎作賞を受賞する凄腕英国監督なのだが、ブンブンに言わせると北野武やタランティーノのダサい二番煎じをやっているようにしか見えない監督で、とにかく相性が悪かった。昨年、当ブログでも紹介した『セブン・サイコパス』は本当に苦手だっただけに、果たして『スリー・ビルボード』は私に合うのか?と思いながらTOHOシネマズ海老名へ向かった。

そしたら、これが当たり。ブンブンの2018年ベスト映画に入れる作品ではなかったのだが、これは間違いなく映画史に残る作品だった。脚本が凄いのはもちろん。今の時代だから作れた作風だと言える。今日は、ネタバレ全開で、『スリー・ビルボード』について解説していきます。

『スリー・ビルボード』あらすじ

最愛の娘が殺された。いつまで経っても犯人が逮捕されないことに痺れを切らしたミルドレッドは町外れのボロいビルボード3枚にメッセージを掲示する。

「HOW COME.. CHIEF WILLOUGHBY?(どうして?ウィロビー署長)」
「AND STILL NO ARRESTS?(まだ逮捕できないの?)」
「RAPED WHILE DYING(レイプされて殺された)」

これを不快に思う警官はミルドレッドに圧力をかけて行くのだが…

映画がテレビドラマに歩み寄る日

アカデミー賞作品賞有力候補『スリー・ビルボード』が公開された。本作はアカデミー賞史、いや映画史において『ムーンライト』以上に重要な作品と言える。

まさに、VODが広まり、NetflixやAmazonが映画を作るようになったこの時代だからこそ生まれ得た作品だ。

従来、テレビドラマは映画から技術を盗み作品が作られていった。例えば、『24』は『絞殺魔』から、『ウォーキング・デッド』はロメロのゾンビ映画からアイデアや技術を持ってきて独自のものへと作り変えていった。

しかし、ここ近年、Netflix映画を中心に、テレビドラマっぽい映画が多数作られている。『ブライト』や『ディア・ホワイト・ピープル』などがその代表だ。

テレビドラマっぽいとは、従来の映画が、起承転結、三幕構成(最近は全編クライマックス系映画も多い)で物語を進めているのに対し、「起」があって、「承転」を何度も繰り返し「結」に着地するという構成で物語を進めることを指す。

『スリー・ビルボード』は、レイプ殺人犯探しをある種のマクガフィンとし、挿話に挿話を積み重ねていき、最終的に思わぬ着地点に観客を誘う作品だ。昨年、海外メディアでカイエ・デュ・シネマを筆頭にテレビドラマである『ツイン・ピーク THE RETURN』が相次いで映画ベストテンにランクインしたが、まさしく『スリー・ビルボード』はテレビドラマ的作風を真似て成功した作品と言えよう。

アカデミー賞脚本賞当確?マクドナー驚異の脚本

正直マクドナー映画は先述の通り、『ヒットマンズ・レクイエム』『セブン・サイコパス』とダサい北野武映画、ダサいタランティーノ映画というイメージがあった。

それが、今回《映画》という枠組みを抜け出そうとすることで、マクドナーが北野武、タランティーノに対するリスペクトで使う会話の面白さというものを持続させることに成功している。

徹底的に、起承転結の承転を引き起こすことで、破天荒でクズだらけのミズーリ州エビングに住む人々が魅力的に見えるのだ。

例えば、冒頭主人公ミルドレッドが広告店に殴り込みに行く場面。彼女の口からは汚い言葉が流れること流れること。しかし、彼女は窓でひっくり返り今にも死にそうな虫を助ける。そこに彼女の人情が見える。しかし、あまりに暴力的な彼女の凶行に観客は段々、ドン引きをする。彼女は恐れ知らぬクレイジーマシンだと。しかし彼女が怯えるエピソードを挿入することで、再びミルドレッドに人間味を帯びさせる。

これが闇雲ではなく、しっかりと群像劇ならではの絡みでエピソードを挿入する。意外な人物と絡ませることで、観客が飽きない仕組みになっているのだ。この手法ってなかなか映画では観ない。テレビドラマ的手法だ。

さっきからテレビドラマ的だと豪語している私だが、しっかりと大スクリーンで観るべき映画的見せ場もある。

例えば、冒頭のビルボードを使ったたらい回しジョーク。大スクリーンでポリスマンと一緒にあのビルボードを目撃するという体験、これは映画館でしか味わえない圧巻の描写、それも爆笑のシーンと言える。ここで、監督は面白い発明をしている。通常ビルボードは前から映すもの。何故ならば、メッセージが書かれているのは前だからだ。それをほとんどのシーンで、一度何も書かれていない黒い裏側を見せてから、前面のメッセージを見せているのだ。しかも、前から三枚ビルボードを見せていけば、

「RAPED WHILE DYING(レイプされて殺された)」
「AND STILL NO ARRESTS?(まだ逮捕できないの?)」
「HOW COME.. CHIEF WILLOUGHBY?(どうして?ウィロビー署長)」

という順番で、観客の目の前にメッセージが映り、ミルドレッドの状況が分かるのに、敢えて後ろから順番に見せる。すると、観客の目の前に移るメッセージは当然反対の、

「HOW COME.. CHIEF WILLOUGHBY?(どうして?ウィロビー署長)」
「AND STILL NO ARRESTS?(まだ逮捕できないの?)」
「RAPED WHILE DYING(レイプされて殺された)」

という表示の仕方になる。これは驚いたことだが、ビルボードの表示順を逆にすることで、ミルドレッドだけの話ではなく、それぞれのビルボードがミルドレッド、ウィロビー所長、ディクソンを象徴しているように見えるのだ。

特に「HOW COME.. CHIEF WILLOUGHBY?(どうして?ウィロビー署長)」は、ウィロビー署長が何故自殺したのか?というエピソードにかかっている。このアイデアには背筋がビリビリと痺れた。すっ凄すぎる。

そして、終盤。
最後のジェダイ』のルーク・スカイウォーカーか!と思わせるビルボードが放火で焼け落ちる様子をミルドレッドが唖然と観るシーンから、彼女が警察署に火炎瓶を投げつけるシーンへとシフトしていき、そして火災に巻き込まれたディクソンが病院でオレンジジュースをもらうという一連の流れに鳥肌がたった。

特に病院のシーン。包帯ぐるぐる巻きになったディクソンの元へ一人の患者がやってきて、オレンジジュースを与えるのだが、それが警察署向かいの広告会社の男なのだ。ディクソンがボコボコに殴り、2階から突き落とした男が優しくオレンジジュースを与える。このシーンに涙腺が潤んだ。これぞ人間の情を描いた最たるもの。

歌詞なき音楽が非常に重要

洋画において、音楽の権利の関係で歌詞に重要なメッセージを託している映画であっても、そのシーンに字幕が載らないことは多々ある。しかし、本作ほど音楽が重要にも関わらず、全く字幕が載らないことにガッカリした作品は稀である。町山智浩の解説がなければ見逃してしまうところでした。

ABBA『チキチータ』は同性愛者の象徴?


例えば、サム・ロックウェル扮する暴力警官ディクソンがABBAの『チキチータ』を隠れながら聴いているシーン。署長の手紙からも推察できるが、ディクソンが同性愛者だったことを裏付ける描写となっています。

何故、ABBAの『チキチータ』が同性愛の象徴なのか。調べて観ると、ABBA自体がゲイに愛されているバンドだということです。オーストラリアのドラッグクイーン映画『プリシラ』が同性愛者の間でカルト映画化しているのだが、そのワンシーンでABBAの『マンマ・ミーア』が歌われるのです。それをきっかけにオーストラリアだけではなく全世界でABBA=ゲイ音楽という認識が広まった模様。

そして『チキチータ』の歌詞をみると、同性愛者の苦悩を描いているように捉えられる歌詞だったりします。(無論、上記の話を知らなければふつーの歌なのだが)


Chiquitita tell me the truth
I’m a shoulder you can cry on
Your best friend
I’m the one you must rely on
You were always sure of yourself
Now I see you’ve broken a feather
I hope we can patch it up together
チキチータ
本当のことを教えて
泣き崩れるあなたの肩にしていいのよ
ディンゆうなのだから
あなたの頼るべき唯一の存在なのよ
あなたは常にありのままの自分を信じていたじゃない
私は今、あなたの翼が壊れかけているのを見ている
一緒に翼を直していけるといいね

※和訳はブンブンがしています。
かなりざっくり意訳なのでちょっと注意です。

ディクソンはレイシストでバカ。ただただマッチョ的な自分に酔いしれている。そんな彼が署長に抱いているほのかな恋心。それは誰にも知られたくない。それを事前に伏線として『チキチータ』に忍ばせることで、火災にも関わらず真剣に署長の手紙を読むあの馬鹿げたシーンに説得力が出てくるのだ。これは歌詞もそうだが、音楽の背景を知っていないと辛いところ。でも、知っているとこれは本当にすごいシーンなんだと圧倒される。

酒場の乱闘シーンで掛かる『Walk Away Renee』に鳥肌が立つ

この記事を書いている時点で、町山さんの映画ムダ話がアップされていなかったので、他の曲についても調べてみた。ブンブンが気になっていたところとして、警察をクビになったディクソンが酒場でレイプ犯らしき者を見つけて喧嘩する場面。そこで象徴的に、The Left Bankeの『Walk Away Renee』が流れる。

ここで歌詞を見てみましょう。


Just walk away Renee
You won’t see me follow you back home
The empty sidewalks on my block are not the same
You’re not to blame
ここから去ってけルネ
俺が君んちについてくことはない
近所の閑古鳥な歩道はすっかり変わってしまった
君のせいじゃないよ

※和訳はブンブンがしています。
かなりざっくり意訳なのでちょっと注意です。

まさに、警察を追い出されたディクソンが病院で「良心」を知り、贖罪したい心を反映した場面だったのだ。ミルドレッドのせいで警察をクビになったとは言いたくないという気持ちと歌詞がバッチリあっていました。

冒頭で流れる詩『夏の名残のばら』に込められた意味

本作では冒頭、アイルランドの詩人トーマス・ムーアが作詞した『夏の名残のばら(The Last Rose of Summer)』が流れる。

Tis the last rose of summer
Left blooming alone
All her lovely companions
Are faded and gone
No flower of her kindred,
No rosebud is nigh,
To reflect back her blushes,
To give sigh for sigh.
夏の最後のバラが
一輪取り残されている
愛すべき仲間たちは
皆色褪せて消えてしまった
身寄りの花は一輪足りともいない
バラの蕾も近くにはない
バラの赤面を映し返す
ため息をつかせるものもない

※和訳はブンブンがしています。
かなりざっくり意訳なのでちょっと注意です。

この歌詞をみると、マクドナー監督は「現代人の孤独」というのを描こうとしていたことがわかる。本作は、ミルドレッドとウィロビー署長、暴力警官のディクソン3人の孤独が描かれている。ミルドレッドは村人全員に嫌われて四面楚歌の中、犯人探しをする。ウィロビー署長はプライドから周りにガンのことを伝えぬまま、孤独に生涯の最期のひと時を見つめ直す。そして、暴力警官のディクソンは今までウィロビー署長の下で悠々自適やりたい放題できていたものが、ミルドレッドの騒動とウィロビーの死によってドンドン追い詰められ、警察署内に仲間すらいなくなってくる孤独が描かれている。

この詩が象徴しているような孤独の物語が展開されているのだ。また、ミルドレッドパートでは西部劇を思わせる音楽が流れる。これがラストへの上手い伏線になっていたりする。孤独の淵に立たされたミルドレッドとディクソンがある殺人で和解しミズーリ州エビングを去るところで物語が終わるのだが、これがまさに西部劇の終わり方と一緒なのだ。それも『真昼の決闘』のように村から誰一人味方がいなくなった者が、怒りを村にぶつけ去っていくプロットになっている。

一見すると、話が右往左往優柔不断に動いているように見えて、非常にきめ細かい脚本になっていたことがわかるのだ。

劇中歌と歌詞和訳サイトリスト

下記に、劇中歌の歌詞と和訳が載ったサイトをリンクしておく。参考にどうぞ。
Renee Fleming:”Tis The Last Rose Of Summer”
Amy Annelle:”Buckskin Stallion Blues” ※和訳なし
Felice Brothers:”Radio Song” ※和訳なし
ABBA:”Chiquitita”
Monsters of Folk:”His Master’s Voice” ※和訳なし
The Left Banke:”Walk Away Renee”
Townes Van Zandt:”Buckskin Stallion” ※和訳なし
Joan Baez:”The Night They Drove Old Dixie Down”

最後に…

『スリー・ビルボード』は英国出身の監督が撮っているにも関わらず、個人主義でビジランティズム全開なアメリカ社会の孤独を、テレビドラマのタッチで描き、それを見事に2時間で収め切ったとんでもない映画だった。残念ながらブンブンの2018年シネマランキングには入りそうにない作品ではあるものの、『シェイプ・オブ・ウォーター』と比べると抜群に脚本が良かった。アカデミー賞作品賞は獲れなくてもいいから、脚本賞はマーティン・マクドナーに獲って欲しい。素晴らしい作品でした。

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