【ネタバレ】『ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー2 前編』の感想を5千字で書いてみた

ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー2 前編(2017)

監督:加藤肇
出演:ナオト・インティライミ

※『旅歌ダイアリー2 後編』の感想はこちら

評価:90点

今年も後1ヶ月。映画ファンにとっては今年のベストテンを決める大事な時期です。ブンブンも毎年新作洋画・邦画、旧作洋画・邦画、そしてワースト部門それぞれ10本計50本発表しており、最近は毎日ランキングを見直して「あぁでもない、こうでもない」と頭を悩ませています。今年は邦画が不作な年、いやタイミングが悪く『幼な子われらに生まれ』(荒井晴彦案件だから映画芸術1位は堅いだろう。キネマ旬報ベストテン1位も射程圏内)や『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『南瓜とマヨネーズ』『帝一の國』といった評判高い作品を観れていない。だから、今年の新作邦画部門はかなり歪なものになっている。そんな空間に恐らく入るであろう作品を先日観てきました。その名も『ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー2 前編』だ。

えっ知らないって?まあ分からなくもない。ナオト・インティライミのドキュメンタリー。それも続編だ。しかしながら、Filmarksでも公開から数日経っているにも関わらずレビューが十数件しかあがっておらず、Twitterで「ナオト・インティライミ」と検索してもほとんど感想が出てこない惨状だから観ている人が少ないのは当然と言えよう。実際にブンブンが観た木曜日TOHOシネマズららぽーと横浜レイトショーでは観客人でした。

実は、私チェ・ブンブン、別にナオト・インティライミのファンではないが前作に魅了された男。どれだけ魅了されたかというと、大学時代学生広報として学部のブログサイトを運営していた際に、「留学前に観ておくべき作品5選」という記事で前作を紹介しているのだ。何が凄いかは後に語るとして、海外旅行好きの心を鷲掴みにした作品の続編を観てきたのでレポートを書きます。あまりに好きすぎて長文になりますが、この文章を読んで、少しでも観てもらえたらなと思っています。それではいってみましょう!

※一応、本作はネタバレ記事です。別に本作は五感の映画なので本記事を読んだ上で観ても問題ありませんが、ネタバレを回避したい方は直ぐに映画館へ行って下さい。

『ナオト・インティライミ 旅歌ダイアリー2 前編』概要

シンガーソングライターのナオト・インティライミは「売れたはいいが、音楽を純粋に楽しむ時間がなくなってしまった」と思い世界へと飛び出す。デビュー前に515日間をかけて28カ国を旅したナオト・インティライミは自分のルーツを探しに旅に出たのだ。前編ではアフリカで現地人と音楽を嗜むナオト・インティライミが映し出される…

現実の『ラ・ラ・ランド』とはコレだ!

今年の2月に『ラ・ラ・ランド

』というミュージカル映画が公開された。あそこではライアン・ゴズリング扮する段々売れていくミュージシャンの「大衆に受けるスタイルで音楽をやり続けるのか?それとも売れなくてもいいから自分のやりたいことをやるのか?」といった苦悩が描かれていた。これは現実でも同じ事が起きており、ブンブンの知り合いの漫画家志望の方からガチで相談を受けたこともありるぐらいクリエーターにとって永遠の課題です。

さて、本作はまさに『ラ・ラ・ランド』で描かれる苦悩をナオト・インティライミ自身が抱きます。10年前、なかなか売れず、仕事はなんでも受け、よさこい祭りの為に曲を書き下ろしたこともあったナオト・インティライミ。10年後、今度は売れっ子になったが音楽と向き合う時間が取れなくなった。このまま惰性で音楽に向き合って良いのか?彼は悩みに悩み、「休業」を選択。半年の旅に出る。向かうべき先はアフリカ。彼の音楽のルーツだ。そう、本作は『ラ・ラ・ランド』における苦悩が現実ではどうなっているのかがよく分かるドキュメンタリーなのだ。

ナオト・インティライミの圧倒的な成長に涙

先ほどから言っている通り、ブンブンはナオト・インティライミのファンでもない。だから彼の歴史をまともに書こうとしてもWikipedia以上のことは出てこない。だから彼の音楽史を語るのは控える。しかし、これだけは語らせて欲しい。それは前作『ナオト・インティライミ 旅歌ダイアリー』から大人に、大人に成長した彼が観られるということだ。

前作の『ナオト・インティライミ 旅歌ダイアリー』は正直イタイ作品でもあった。確かに、ある人に会うために猛烈交渉するナオト・インティライミ、値切り交渉をするナオト・インティライミ。海外旅行好きが沢木耕太郎の『深夜特急』やアフリカ、インドのヤバいところをレポートしている本などを読んで抱く「実際に現地ではどんなやりとりが行われていたんだろう」という疑問を解消してくれる。ナオト・インティライミのチャラくてタフで強靱な精神にブンブンは惹かれた。

しかし、よくよく観ると前作の目的が「世界を旅して音楽を作る」というもの。つまりネタ探しで海外を旅しているわけで、旅をしているナオト・インティライミからは音楽と向き合う、世界や人を深く知ろうという気概はなかった。それ故に、Twitterでは一時期ナオト・インティライミの本作での行為が無礼だ、失礼だと炎上した。

実際にできあがった音楽を聴いても、他の楽曲と比べて薄っぺらいもので、あれだけ時間をかけたのにこのレベルの曲か!それこそZip!でワンコを連れて散歩しているミュージシャンと変わんねぇじゃんと思ったりした。(それも含めて、好きな作品ではあるのだが)

さて、今回のナオト・インティライミはどうか?今回の目的は「音楽と向き合う」ことだ。それだけに本気度が違う。

モザンビークに着くやいなや、手始めにライブに参加する。そして、音楽フェスに参加する。彼は現地で出会ったアーティストの家に遊びに行く。そしてセッションをする。前作にあった「日本人としてのナオト・インティライミ、有名人としてのナオト・インティライミ」という服を脱ぎ去り、老若男女誰だろうと交流しようとする。彼は「英語」を過信しない。現地語を秒でマスターし、例えば露天で肉料理を頼もうものなら、その国の言葉で「君の名前はなんですか?」「ありがとう」と言う。なかなか日本人はシャイで、指さし○○語会話帳を持っていてもその国の言葉で会話をしない。英語でThank youと言えればまだ良い方で、下手すると日本語で済ませてしまう。ブンブンもコミュ障だから、なかなか英語、フランス語以外の言語で交流する一歩を踏み出せない。

ナオト・インティライミも前作まではそういうところがあったが、今回は完全に人が変わっているのだ。

特に注目してほしいのが、タンザニアの音楽フェス『サウティ・ザ・ブサラ(Sauti za Busara)』に参加した際、ナオト・インティライミは現地民に絡み始める。

「ウァウァウァウァットイズイト?」という風に「What is it(これは何ですか)?」をリズミカルに訊くナオト。レイザーラモンRGのあるあるネタのように、くどいくらいビートを刻んだ後、カメラが引きその正体が明らかになる。それは「Water(水)」だった。水曜日のダウンタウンを観ていると、レイザーラモンRGのあるあるネタは外国人には通用しないイメージを抱く。しかし、やり方一つでこうもくだらないネタが爆笑と高揚感を引き起こすんだと気づかされるシーンだ。この現地人との交流一つとっても垢抜けたナオト・インティライミがいた。

まさにケルアックの『オン・ザ・ロード』

そんなナオト・インティライミが羽を伸ばして世界で暴れている姿をカメラは至近距離で追う。ナオト・インティライミは第四の壁を破り積極的に観客に語りかけてくるので、まるでジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』におけるサル・パラダイスのような気分でナオト・インティライミという一人の男、燃えて、燃えて、燃え尽きる夜を彩る花火のような男ナオト・インティライミを観ることになる。

ナオト・インティライミと「死」

そんな改心したようなナオト・インティライミはこの旅で死の恐怖と対峙します。それはタンザニアで起こった。彼は夜中に飛び上がる。全身が痒いようだ。そしてあまりの痒さに救急車を呼ぶ羽目に。どうやら死ぬ危険性のある病に罹ったようで、病院で手当をしなければいけない。すぐに救急搬送されるナオト。たどり着いた病院はボロボロの病院で、注射を施されるが、果たして衛生的に大丈夫な注射なのか?何を投与されたのか分からない。流石に現地語で病状も伝えられないので、ゲッティング・ワース、プリーズ・ヘルプ・ミーと救いの声を医者に伝えることしかできない。どんどん呼吸が苦しくなり、めまいすら発生し今にも死にそうなナオトを観て、背筋が凍る。旅は決して楽しいことばかりではない。時にはトンデモナイことが起こる。こういうのが赤裸々に描写されているあたり、決して『世界の果てまでイッテQ』や『ANOTHER SKY』では描かれない。

ブンブンも留学中腐ったもやしを喰って、死にそうになったことがあるだけに、その場面ではナオト・インティライミ頑張れ!と応援していた。

旅という「奇跡の起こる空間」

今のご時世、テレビやスマホで気軽に世界旅行することができる。それ故か、旅行業界は伸び悩んでいる(だからこそビジネス旅行やMICEに力を入れている)。結構職場の同僚や、友だちから「なんでそんなに旅行するの?旅って楽しい?」と訊かれる。本能的に海外に魅せられているだけに回答には困るのだが、ブンブンが思うに大金と時間をかけなければ得られない経験価値が旅行にある。

海外旅行に行くと、奇跡が起きる。これは別に、スピリチュアルな旅本での話ではなくホントウに起こるのだ。ブンブンも何度もその奇跡に立ち会っているのでこれだけは言える。

今回ナオト・インティライミが引き起こした奇跡はまるで『映画 けいおん!』のようだ。カーボベルデのカーニバルにやってきたナオト・インティライミ。バーでミニライブを行ったが満足のいくクオリティのものが作れず、悔しさのあまり現地の音楽Morna(モルナ)を習得しようとする。Mornaとは奴隷貿易や植民地時代の抑圧による哀しみを背負ったフォークソングのジャンル。彼は現地で最も有名なCesaria Evora(セザリア・エヴォラ)のSodadeを必至に覚える。ポルトガル語(ひょっとしてカーボベルデ・クレオール語?)独特のアクセント、早回しに苦戦しつつ様になっていく。そして、夜。バーに行く前にラウンジでブラジル人とアンゴラ人のミュージシャンがたむろっていたのでセッションを仕掛ける。そしてSodadeを披露する。彼らにはウケた。やった!と意気揚々そのアンゴラ人が行くバーを訪れる。

目の前にはポルトガル勲章受章歌手のティト・パリスがいる。彼の音楽に大満足したナオトはトイレで用を足し、いざ帰ろうとすると、突然ティトが「ナオト!カム・ヒア!」と言い始めた。そうラウンジで知り合ったアンゴラ人が手回ししていたのだ。有名人を前にドキドキするナオト、いこうかいかまいかと悩みに悩んだ挙げ句、Sodadeを披露し会場を盛り上げるのだ。

この恍惚とした体験に本作を観た者誰もが心を奪われるであろう。

そして、ナオトは空港で、それも出発の20分前に再度ティト・パリスに会う。これは決して『世界ふれあい街歩き』のようにやらせではない。海外旅行を通じて奇跡と邂逅する幸せ。これぞ、旅行に魅せられる要因の一つだ。これぞ旅の醍醐味だとブンブンは涙して観ていた。

最後に…

恐らくナオト・インティライミファン以外で誰も今年のベストテンに本作を入れることはないだろう。しかしながら、ブンブンにとって本作はとっても大事な一本になりました。前作と合わせ、旅を通じて一人のミュージシャンが成長していく姿を、ドープなアフリカの鼓動と共に紡がれていく。人生こそ最高傑作だ!とにかく旅に出たい!と思う一本だ。

海外旅行好きはもちろん、これから留学に行こうとしている方は、ナオト・インティライミのことをよく知らなくても一見の価値がある。そして折角観るのであれば、やはり1作目の『ナオト・インティライミ 旅歌ダイアリー』を観てから臨むことをオススメします。

↑主題歌『Sunday』

後編の公開日

『ナオト・インティライミ 旅歌ダイアリー2 後編』は2018年1月5日より全国公開です。上映館が少ない且つ、すぐに上映終了することが予想されるので、興味ある方は早めに鑑賞した方がいいですよ。

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