【TIFF2017】『グレイン』東京グランプリ受賞!トルコ版「ストーカー」は世界の環境問題に雷放つ

グレイン(2017)
GRAIN(2017)

監督:セミフ・カプランオール
出演:ジャン=マルク・バール、
エルミン・ブラヴォ、
グリゴリー・ドブリギンetc

評価:65点

東京国際映画祭はかれこれ10年近く通っているが、グランプリ作品を観ていることは少ない。しかしながら、今回はなんと東京グランプリ受賞作品を観ていました。Twitterや映画友だち評判ではカザフスタンの全編手話映画『スヴェタ』か、フランス映画『マリリンヌ』かと言われていたが、まさかの『スヴェタ』は無冠。『マリリンヌ』は最優秀女優賞を受賞。そして今回紹介する『グレイン』が受賞しました。『グレイン』はアートアートした作品なので、本祭で受賞するのはかなり意外。ってことで、このトルコ映画『グレイン』を観ていきましょう。

『グレイン』あらすじ

近未来、遺伝子操作で総てを管理しようとする社会。そんな社会で、遺伝子不全により農作物ができない事態となっていた。種子遺伝学者であるエロールはこの問題を解決する鍵を握っているアクマンを探しに、磁気壁を越えて死の谷へと向かう…

珍しいトルコのSF映画

『グレイン(麦)』は『卵』『ミルク』『蜂蜜』の三部作で有名なセミフ・カプランオールが撮った作品で、監督初めてSFというジャンルに挑んだ代物だ。監督は前作『蜂蜜』の成功で、アメリカやオーストラリアなど様々な国に渡り、そこで感じた問題点を映画化しようと製作期間5年をかけて本作を作り込んだとのこと。

肝心なその中身をフレンチ風に語るとするならば、「トルコ流『ブレードランナー』、タルコフスキーの『ストーカー』添え『メトロポリス』風」である。

遺伝子組み換え作物を開発する会社の社員が、疫病の謎を知っているらしい失踪した男を追う物語。

前半部分では、『メトロポリス』を思わせるレトロな近未来描写(ほとんどCGは使っていないとのこと)をバッグに、『ブレードランナー』さながら静かな追跡劇が始まる。

この追跡劇が、ちょっと長い&物語の全貌が掴みにくい代物だけに睡魔と闘っている方を多数見かけた。

それを耐えると本格的に面白くなる。迂闊に入ると死ぬらしい死の土地へ案内人に連れられて潜入する。その死の土地でターゲットに会い、交流するうちに、主人公の心から環境問題に対する怒りがこみ上げてくるという内容になっている。そして、環境を破壊する側の主人公が、長く危険な旅を通じて環境問題に心を痛めた際に行うある行為。人類に、企業に伝えなくてはいけないが、伝えてしまうと一抹の希望がなくなる。だから私はああするしかないという苦肉の行動に観客は心を締め付けられることでしょう。

まんまタルコフスキーの『ストーカー』だ。しかし、タルコフスキーの『ストーカー』以上に露骨に、酸性雨、原発、遺伝子組み換え作物といったものを想起させるので、SF映画にも関わらず他人事に思えない。

特に「土」について議論するシーンは、3.11を知る我々日本人にとって胸が締め付けられる作品であった。

岩波ホールあたりでいいんで、劇場公開されることを祈ります。(既にどこかの映画会社が配給権を勝ち取ったらしい。来年公開なるか?)

↑セミフ監督とジャン=マルク・ヴァレが登壇されました。

第30回東京国際映画祭受賞結果

ちなみに、今年の東京国際映画祭の受賞結果は下記です。
東京グランプリ:『グレイン』
東京都知事賞:『グレイン』
審査委員特別賞:『ナポリ、輝きの陰で』
最優秀監督賞:エドモンド・ヨウ(『アケラット-ロヒンギャの祈り』)
最優秀女優賞:アデリーヌ・デルミー(『マリリンヌ』)
最優秀男優賞:ドアン・イーホン(『迫り来る嵐』)
最優秀芸術貢献賞:『迫り来る嵐』
最優秀脚本賞 Presented by WOWOW:『ペット安楽死請負人』
観客賞:『勝手にふるえてろ』

第30回東京国際映画祭レビュー

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