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【ネタバレ/解説】吉田大八監督「美しい星」は三島由紀夫の原作必読の怪作だった!

【ネタバレ/解説】吉田大八監督「美しい星」は三島由紀夫の原作必読の怪作だった!

美しい星(2017)


監督:吉田大八
出演:リリー・フランキー、亀梨和也、
橋本愛、中嶋朋子、佐々木蔵之介etc

評価:80点

「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」の吉田大八監督が長年温めていたネタを遂に解禁!それは三島由紀夫の異色SF小説「美しい星」の映画化だった!ただでさえ、映画化するのは難しいと言われている三島文学。それもよりによって「美しい星」。予告編を観る限り、危険な香りしかしなかったのだが、これがすさまじい映画でしたよ。

「美しい星」あらすじ

突然、一家は覚醒する。天気予報士の大杉重一郎は火星人、フリーターの息子大杉一雄は水星人、大学生の娘大杉暁子は金星人の自我が芽生えた。そして、それぞれ美しい星・地球の将来について悩み、行動に移すのだった…

何故、「美しい星」は映画化困難なのか?

三島由紀夫の小説を映画化するのは難しい。何が難しいかってというと小説ならでは、三島由紀夫小説ならではの耽美で難解な単語の洪水をどうやって映像で再現するか問題がある。

「タクシードライバー」脚本家のポール・シュナイダーが撮った「Mishima」や市川崑の「炎上」は圧倒的映像美でもって耽美さを表現した。三島由紀夫自身も「憂国」を映画化した際、台詞を排することで耽美さを演出していた。

正直三島文学は、内容自体の映画化は問題ない。三島由紀夫自身、映画評論を書いていたせいもあるのか、物語構成はかなり映画的です。特に、「美しい星」も読むと「ここでタイトルが出るんだろうな」といったことが分かる作りになっている。

しかし問題は三島文学特有のボキャブラリー、言い回しにある。そして、そもそも「美しい星」が出版されたのは1962年。東西冷戦により世界が本当に滅亡するのではと世の中が不安に駆られていた時代。1950年代からアメリカでは「ボディー・スナッチャー」「縮みゆく人間」と政治的恐怖を描いた厭世的なSF映画が作られていた。そんな世界観を「美しい星」にのねじ込んでいる。つまり、如何に2017年に持ってくるのか?そこが一番の問題だった。

吉田大八の大胆な再構築

結論から言おう。この「美しい星」は括弧付きで成功、傑作であった。

テーマは「東西冷戦」「核兵器問題」から「地球温暖化」と近年問題視される「日本人の他者に対する無関心」へと変更。スケール感は矮小せざる得なかったものの、着眼点は鋭い。

家族が覚醒し、各々暴れているのに変化に気づけない程家族の絆が希薄化する。まさに現代の大事件が起きるまで、人の変化に気づけない日本人像がカリカチュアされている。そして、皮肉にも覚醒が絆の大切さを気づかせてくれる。そのブラックさにのめり込んだ。

また、原作では、ご丁寧に家族で空飛ぶ円盤を観に行くとこから始まり、円盤が出現するかどうか?といったところで、本編が始まるいかにも映画的構成を提供しているにも関わらず、そのアヴァンタイトル部分を改変している。一見、改悪に見えるものも、しっかり観ると上手い。一発で家族関係を分からせ且つ三島的ボキャブラリーをねじ込むことも出来る。「ソ連」が云々語って、円盤を待つような原作では、現代においてベタで掴みも悪いだけに素晴らしい。なんだか、クローネンバーグの「裸のランチ」を観たような興奮がありました。

リリー・フランキーは本当に火星人なのか?

原作においてラストは以下のように書かれている。

「来ているわ!お父様、来ているわ!」
と暁子が突然叫んだ。
円丘の叢林に身を隠し、やや斜めに着陸している銀灰色の円盤が、息づくように、緑いろに、又あざやかな橙いろに、かわるがわるその下辺の光りの色を変えているのが眺められた。
(新潮文庫 p361 2~6行目)

つまり、原作では宇宙人は存在する。騒乱の末に、ようやく未知との遭遇を果たすエンディングとなっている。

一方映画版では、火星人、水星人、金星人は妄想だったと匂わせるラストになっている。というのも、ラストに水星人と金星人は我に返っている。金星人は、同類だと思っていた金沢の金星人にクスリを飲まされ、レイプされ妊娠していたことが発覚する。その金沢の金星人はただのクズな地球人だったのです。また、水星人も、国会での仕事を剥奪されている。結局、佐々木蔵之介扮する男のような超能力も何も持ち合わせずに我に返っている。極めつけは、リリー・フランキー扮する火星人。あの円盤から地球を眺めている様子は、完全に走馬燈です。地球を眺めるリリー・フランキーの目に映るのは、ガンでやつれたさっきまでの本人。つまり、地球から魂が抜けてしまった状態なので、それは「死」を意味する。火星にいったのではなく、黄泉へ旅立ったと言えるのです。それには根拠があり、金星人のレイプ事件と天気予報士の女性下克上問題が見事にシンクロしてしまっている点が挙げられます。

金星人レイプ事件は天気予報士の女性とリリー・フランキーの関係とも似ている。天気予報士の女性は、リリー・フランキーを降板させることでレギュラーを勝ち取ろうとしている。それ故に、リリー・フランキーにクスリを飲ませ昏睡させたと十分考えられるのです。また、火星人に覚醒したリリー・フランキーが想像以上に番組内でウケてしまい、彼女が嫉妬しリリー・フランキーにキスをしビンタするシーンもスキャンダルを狙っている感じが伺える。

確かに、本作は結局誰が○星人なのかはあまり意味がなく、宇宙人という設定を活かすことで人類の諸悪を浮き彫りにさせるあくまでマクガフィン的要素なのだが、それでも行間、真相について観た人と語りたくなる映画でした。

惜しい!

こう熱く語っているブンブンですが、実は不満点もあります。原作未読でも楽しめたクローネンバーグの「裸のランチ」とは違い、本作は原作読んでないと正直退屈する作品であります。ちょっと覚醒するまでが長すぎたかもしれません。劣化版「裸のランチ」なのは否ないのも正直な感想。でも、私は、シネコンでヒットしている(ブンブンの回は9割座席埋まってました)この「美しい星」を賞賛します。

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