【ネタバレ/解説/考察】「3月のライオン 後編」後藤戦の脚本が凄まじかった件

ネタバレ/解説/考察】「3月のライオン 後編」

(※「3月のライオン 後編」ネタバレなし評はこちら

)
先日公開された「3月のライオン 後編」。ブンブンは高校時代の友だちと観に行ったのだが、観終わった後の感想戦で、友だちが「分からないところが多かった」と言っていた。それもそのはず。羽海野チカの原作はあまりに情報量が多い。そして、今回の映画版はその膨大な情報量の中から大友監督が上手いことエッセンスを抽出して再構築している。技巧が凄すぎて、いろいろと見失うものも多い。ってことで、今回友人から頂いた質問に答える形で、「3月のライオン 後編」を解説及び考察していくぞ!
尚、完全ネタバレ記事なので、未見の方は速やかに映画館へ行ってください。

Q:結局将棋盤で何が行われていたのか?

将棋に詳しくない人最大のブラックボックスは、試合中の盤面です。将棋を知っている者にとっては、ボクシング映画さながらの手汗握る展開に胸が熱くなる。しかし、将棋を知らない人は雰囲気こそ分かるが、結局盤面で何が行われていたかは分からないものです。そんな将棋初心者の方に、専門用語を使わず盤面の解説をしていきます。

宗谷冬司戦

まず、冒頭、桐山零がKING OF SHOGIこと宗谷冬司と戦うシーンから始まる。これがトンデモナイ試合になっていました。「3月のライオン 前編

」を思い出して欲しい。登場する棋士は皆口を揃えてこう言っていた「守りの将棋は苦手なんだよね」。今回の試合では、なんと宗谷冬司が守りの将棋をしていました。皆の苦手な守りを固めて、徹底的に桐山零の攻撃をしのぐ。桐山零は全力で総攻撃を仕掛ける。しかし、よく見ると宗谷冬司の守りはあまりに堅すぎて1ダメージも食らわすことができてないのです。あまりに堅牢すぎる守り。そして、桐山零がミスを犯した途端、大反撃に宗谷冬司は出る。桐山零の王将(コレを取られたら負け)は盤上を右往左往逃げ惑う。そして、結局1ダメージも食らわすことが出来ずに桐山零は宗谷冬司に敗北する。つまり、KING OF SHOGIだけあって、皆の苦手な手も冷静沈着に対応する凄みを盤上の格闘で演出していることが分かります。

後藤正宗戦

終盤の後藤戦は、一触即発な試合であった。お互いに長時間に及ぶ戦闘で疲弊している。そして、お互いに一手でも隙を見せたら負けてしまう究極の盤面が目の前に広がっていた。特に、桐山零は王将が袋のネズミになっていて、絶望的な程に死亡フラグが立っていただけに、発狂してしまいましたね。でも、後藤の微かな隙を見計らって逆転することができました。

Q:後藤戦で何故、いつも重い手を使ってくる後藤が別の方法で桐山零に攻め込んだのか?

後藤が桐山零戦でいつもと違う戦法を使ってきた点を友だちが指摘してきました。実は、この後藤戦の描写が脚本としてよく出来ています。まず、前編を思い出してください。桐山零は強敵・後藤を倒すことばかり考えていて、目の前の相手である島田を軽視し、島田に敗れ、結局後藤と戦うことはなかった。後編では、後藤が宗谷冬司のことしか考えておらず、桐山零に苦戦し負けるという物語上の反復がなされています。後藤はとっとと島田に負けた桐山零を倒して、宗谷冬司と戦いたいとばかり考えているので、自宅では桐山零の研究をおろそかにし、宗谷冬司戦へのデモンストレーションをしている。前編と同じ事が行われています。そしていざ後藤VS桐山の試合が始まると、後藤はいつも使っていた重厚な手を使わずに、試合を早く終わらせる別の手を使ってくる。つまり、何故後藤は別の手を使ったかというと、「桐山をとっとと倒して宗谷戦に備えたい」という想いがあったからと言えます。そして、前編の島田VS桐山戦のように、ドンドン沼に嵌まっていく様子は圧巻と言える。結局、桐山零は最後まで後藤を見つめて諦めなかったので勝利を収めることができました。

Q:後藤は何故、香子を追い出したのか?

後藤は恋人である香子を家から追い出します。その理由について考察していきましょう。後藤は何故戦うのか?あまり台詞はなく、表情だけでしか捉えることができないのだが、恐らく奥さんの為と言える。奥さんは難病で寝たきりになっており、余命僅かです。大切な妻の為に後藤は将棋で勝ち進んでいる。しかし、そんな妻が亡くなった。自分の真の心の支えがいなくなった。あまりの哀しみに一人になりたい、哀しみを忘れる為にKING OF SHOGIこと宗谷冬司に勝つことだけを考えたいと思った。だからこそ愛人である香子を追い出したと言えよう。そして、無我夢中で挑んだ桐山零に敗れ、我に返ったことで、戻ってきた香子を再び受け入れることができたと推測することができます。

Q:桐山零は何故、川本家を去った後も戦えたのか?

川本家のいやーな父親を追い出そうとするあまり、桐山零は酷いことを言ってしまい、川本家を追放されてしまう。通常だったら、その後の試合に変調をきたし、再起不能になってしまう筈なのだが、何故戦い抜けたのか?それは桐山零のプライドにあると考えられる。桐山零は、幼少期に幸田家をメチャクチャにしたことにコンプレックスを抱いている。新しく流れ着いた川本家。ゼッタイに壊したくない空間を、招かれざる客を追い出そうとするあまりに自分で再び壊してしまった。棋士にとってアイデンティティは将棋しかない。将棋で勝たなければ自己を保つことができない。だからこそアグレッシブに有り続けることで川本家との問題を解決しようとした。元々、桐山零は川本家の力で強くなれた棋士だけに、彼の川本家愛全開な将棋は強いのです。

Q:柾近が香子に放った台詞の意味とは?

後藤に追い出された香子は、実家に戻り柾近と対峙する。柾近は将棋盤を示し、「お前は分かるか?」と訊く。この台詞には、柾近の懺悔の気持ちと香子に対する期待が込められている。幸田家は、プロ棋士である柾近が息子達をプロ棋士にすべくスパルタで育てていた。しかし、結局プロ棋士になれたのは、弟子として引き取った桐山零で、長男は引きこもりに、長女は歪んだ女になってしまった。柾近は子ども達に、厳しくしつけすぎたことを謝りたいと思っている。と同時に、自分で道を切り開いて欲しいという想いも伝えたいと感じている。だからこそ、香子が桐山零を殴った試合を例に、「実は香子は勝っていた」ことを示すことで、「自分を信じろ」というメッセージを香子に伝えたのです。そして、家族と将棋に縛られていた香子は晴れて自由の身となり、後藤の心の世話役をするという新しい道を切り開いたのです。

Q:川本家は何故、父と遊びに行ったのか?

桐山零を追放した後、川本家は父を連れて最後の週末を送る。やはり、川本家は桐山零を追放したとはいえ、あれだけ大の大人相手にはっきりと意見を言う彼を忘れることができない。確かに、「他人事」をタニンゴトと読む幼さこそあれど、本気で家族のことを考えて自律もしている桐山零のことは尊敬している。だからこそ、川本家は父親としっかり対峙し、はっきりと「もう会わない」と言おうと遊園地にでかけた。お人好しで優しい川本家の心の強さを魅せたシーンと言える。

最後に…

「3月のライオン 後編」は、ズバリ「人生の一手を指す」物語と言える。桐山零を始め、川本家、香子、後藤が、将棋を通じて人生の新たな一手を、力強い一手を指す物語です。だからこそ、心揺れ動かされるところがあり、泣けてくる。ブンブンは本作がとっても好きになりました。

おまけ:中学生棋士・藤井聡太四段、羽生善治に勝つ

先日衝撃的なニュースがブンブンの前に舞い込んできた。中学生棋士の藤井聡太が、「3月のライオン」の宗谷冬司のモデルにもなった羽生善治を倒しました。その試合の様子は、まさに「3月のライオン」そのもので圧巻な試合でした。映画では、桐山零は宗谷冬司に敗北するが、現実では勝ってしまい衝撃を受けました。藤井棋士の今後に期待です。

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