“Ç”【リービ英雄ゼミ】三島由紀夫「憂国」映画版が凄い件

憂国(1966)

監督:三島由紀夫
出演:三島由紀夫、鶴岡淑子etc

評価:80点

ブンブンの所属するリービ英雄
ゼミ
で三島由紀夫の
「憂国」を扱うとのことで、
教材として三島由紀夫が監督・出演
した映画版「憂国」のDVDを
購入しました。

小説家が映画監督として
作品を作るケースは
ジャン・コクトーや
寺山修司
とあまり多くいない。
いても安部公房や
谷川俊太郎、
最近だと「ルーム」


エマ・ドナヒューのように
脚本家どまりになる
ケースが多い。

そんな中、三島由紀夫は
初監督作品し、
いきなり
ツール国際短編映画祭劇映画部門第2位
を受賞した作品だ。

さて中身はいかに…

「憂国」あらすじ

結婚式の為、二・二六事件の決起に誘われなかった
中尉。軍から決起に参加した叛乱軍を討つよう
告げられた彼は、苦悩の末に
自決を決意。
妻と最後のひとときを過ごし…

危険すぎる企画

よく海外に出品できた、
DVD化までできたなと思うほど
危険過ぎる映画だ。

なんたって、東宝とATGの
スタッフが三島由紀夫の
プロジェクトを支援したのだが、
問題になるのはあきらか
だったので、こっそり
撮影所に忍び込んで
作ったとのこと。

それ故か、
セットは1つで挑み、
軍上層部からの命令や
二・二六事件の様子など
普通の映画監督だったら
入れるであろう説明
シーンを省いている。

これがまさに真髄
となっている。

小説と映画の住み分け

教授は小説家故か「文字が紡ぎ出す世界」を
好むので映画のような映像世界
を映画好き以上に批判的に見る。
どうやら小説家は、一般人よりも
「文学」と「映画」の表現の違いを
意識するのであろう。

三島由紀夫は映画にも造詣が
深かったので、
監督1作品目にして
完璧なまでに映画と
小説の住み分けを行うことで
両立を図った。

本作はサイレント映画だ!
ワグナーの
「トリスタンとイゾルデ」

の音楽に乗せて、
自決までのひとときの
切なさを妻と共有する
中尉が描かれる。

サイレント映画といえば、
台詞がないので、
早回しにしたり、
激しいカット割りを
入れるのだが、
本作は「能」のように
最後まで静かに
辛抱強く悲哀を
描いている。

それ故に、
ラストの自決シーンの
血しぶきに
重みを与えることができている。

黒澤明の影響か?

てっきり、セットの雰囲気と
内容から、制作もATGってことも
あり篠田正浩監督の「心中天網島」
に影響を受けているのでは?
と思ったのだが、
あれは1969年だったので
全く影響を受けていない。
強烈に「舞台」と「映画」の
境界線を破って魅せた
あれの影響を受けずに
ここまでやりきったのは
ホントウに凄いことだ。

さて、じゃあ映画製作初心者の
三島由紀夫は誰の影響を
受けたのだろうか?
映画に造詣が深く、
後世では「地獄に墜ちた勇者ども」
を評価する程の彼故に興味深い
点だ。

ゼミ生の調査によると
1952年に三島は
1年近くかけて
世界一周旅行に
行っていたとのこと。

そこでオペラや映画を
鑑賞し、アメリカで
黒澤明の「羅生門」
を観たとのこと。

この「羅生門」は
芥川龍之介の「藪の中」
を映画化したものだが、
羅生門の圧倒的
ヴィジュアルなければ
ここまで影響を
与えなかったであろう。

「羅生門」に影響を受けた
アラン・レネの
「去年マリエンバート」

ベルイマンの「処女の泉」
ヴィジュアルに気を遣っている。

何故突然こんな話をしたかと
いうと、三島由紀夫は
黒澤明の影響を
受けたのではと仮説を
立てられるからだ。

黒沢明は
「羅生門」を始め、
「白痴」「蜘蛛巣城」「どん底」など
文学の世界を、映画で再構築するのを
得意とした監督だった。
特にシェイクスピアや
ドストエフスキー
など
海外の小説を日本に置き換えて
映画化することに長けていた。

1950年代から大岡昇平を始め、
小説を音楽や映画の領域へと
拡大しようという文学立体化運動
始まっていたこともあり、
三島に影響を与えたのではと考えられる。

そしてこの「憂国」では、
「能」に近いヴィジュアル演出
にも関わらず、サントラで
ワーグナーを使用する
和洋折衷を成功させている。
違和感なく演出されており
すばらしいと感じた。

ところで「トリスタンとイゾルデ」って?

サントラに使われている
ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」。
どんな話かというと、
かつて許嫁を殺されたのに、
殺した人物トリスタンに
惹かれてしまったイゾルデ。
媚薬のおかげで両者ラブラブ
になるのだが、
イゾルデの新しい結婚相手
マルケ王にバレてしまい、
トリスタンとマルケ王の
死闘が始まる。
そしてトリスタンは死亡し、
イゾルデの腕の中で息絶えて
終わる悲劇だ。

身分を超えた愛に苦悩する
様子を描いた作品。
仲間との友情を取るか、
妻との愛を取るのかで
苦悩する「憂国」に
まさにあった楽曲と言えよう。

残念ながら、ブンブンは教育実習で
丁度「憂国」の中身を研究する
回に参加できないので
残念だが、教授と議論を
交わしたいブンブンでした。

P.S.三島由紀夫は達筆!

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ブンブンの購入したDVDには
海外公開バージョンが収録。
オープニングのタイトルシーンが
異なるのだが、総て三島由紀夫の
達筆で書かれた英語ないし
フランス語が振る舞われている。
彼は幼少期に習字で優秀だったようで
ここでも活かされています。

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