“Ç”【「模範郷」書評】チョー意外!集英社から発売されたリービ英雄最新作について

模範郷(2016)

模範郷

作者:リービ英雄

先日、ブンブンの所属する
国際文学論ゼミのリービ英雄
教授が最新刊「模範郷」

出版した。

彼の小説は
いっつも講談社文芸文庫から
出版されているイメージが
強いのだが、今回、
なんと集英社!
あの「友情・努力・勝利」
の会社から出版されていて
正直驚きました。

無論、そのキャッチフレーズは
週刊少年ジャンプ部門での話ですが
それにしても巻末の
最新小説一覧が
「東京自叙伝(奥泉光)」
「教団X(中村文則)」
「持たざる者(金原ひとみ)」

と大衆小説が並んでいる
のを見ると、この
あまりにもプライベートな
小説が出版されたことは
かなりの異色だ。

ってことで読んでみましたよ~
リービ英雄

↑リービ英雄教授から「模範郷」
出版第一号サインを頂きました(*^_^*)

「模範郷」あらすじ

1.「模範郷」
久しぶりに生まれ育った故郷
台湾に訪れる。
しかし、台湾にはかつてあった
「日本人建的」家の面影はなく、
時代と共に消えた文化と
記憶について思い巡らす…

2.「宣教師学校五十年史」
52年ぶりに台中の、
かつて日本人が創った「模範郷」
を訪れたリービ英雄が
自分の故郷に違いない場所が
自分の国ではない事を
再度突きつけられる。

3.「ゴーイング・ネイティブ」
「天安門」を出版して
20年後に、歴史の流れと
共に「ネイティブ」とは
何かを考察する。

4.「未舗装のまま」
三章をまとめて、
リービ英雄にとっての
「模範郷」とは
何かについて描く。

記憶と歴史

あらすじを読んでもらえると
分かるとおり、明らかに
エッセイなのだが、
本人曰く小説とのこと。

志賀直哉の「城の崎にて」
に近い、旅を通じて
思考する様子を
ポートレートにした
ような作品だ。

そして、本作は
幼少期から台湾、香港、
アメリカへと移り住み、
今では日本で日本語を
使って小説を書く、
レア過ぎるリービ英雄
の人生そのものを描いている
一方で読者にキチンと
共感・切なさを与える
バランスの取れた作品となっている。

本作のテーマは記憶と歴史である。
皆さんも、「昔、あそこにボロ屋があった」
という思い出を元に、その場所を
訪れたらマンションが建っていた
って思い出ありませんか?

ブンブンの住む地元も、
現在どんどんトタンの家が
取り壊されてマンションや
パーキングエリアへと変貌しており
切なさを感じる。

本作では、久しぶりに
台湾へ行ったリービ英雄が、
あんなに沢山あった
「日本人建的(ル ベンレン)」
家が失われかけている
ことにわびしさを感じる
様子が描かれている。

確かに第二次世界大戦中の
日本軍占領の証故に、
取り壊されるのも無理ない。

しかし、「記憶」の中では
いつまでも残っており、
たまに頭の引き出しを
開けてその「記憶」を
触ることでノスタルジーを
感じる。

時代の流れに逆行する「記憶」
との狭間で葛藤する様子は、
ブンブンも結構あるので
読んでいてとても切なくなる。

また、本作は単に切ない
だけでなく、リービ英雄だから
書けた「ことば」についての
考察も重厚に描かれており、
これを読むと改めて
日本語の特異性が分かる。

例えば、
「道ばたの標識は、『鶏公山』と
英語で『Rooster Mountain』と
書いてあった。
Rooster Mountainを、
僕は思わず脳裏に『ルースター・マウンテン』
とカタカナにして読んだ。雄鶏山という
奇妙な日本語も一瞬浮かんでしまった。
(p74 10~12行目より引用)」

確かに、日本人の多くは未だに
英語を見ると脳裏でカタカナにしてしまうな~
ってところを思わせるシーンだ。

このように、「模範郷」は
記憶と歴史の関係性を考察
しているが、同時に外国人から見た
日本語やアジア観も堪能できるので
言葉に興味ある人必読の
小説と言えよう。

2017/2/2更新 第68回読売文学賞を受賞

1949年から続く文学賞、読売文学賞を
「模範郷」が受賞しました。

この賞は1949年に創設され、
毎年、「小説」「戯曲・シナリオ」
「評論・伝記」「詩歌俳句」
「研究・翻訳」「随筆・紀行」

6部門で優秀な作品を選出している。

今回の結果は下記の通りです。
☆小説賞:模範郷(集英社)
リービ英雄

☆戯曲・シナリオ賞
「キネマと恋人」(上映台本)
ケラリーノ・サンドロヴィッチ

☆随筆・紀行賞
「ヘンリー・ソロー 野生の学舎」
(みすず書房)
今福龍太

☆評論・伝記賞
「狂うひと『死の棘』の妻・島尾ミホ」
(新潮社)
梯久美子

☆詩歌俳句賞
「わたしの日付変更線」
(思潮社)
ジェフリー・アングルス

☆研究・翻訳賞
パスカル「パンセ」全3冊
(岩波書店)
塩川哲也

それにしても、
外国人にして日本語でモノを
書くリービ英雄と
ジェフリー・アングルスが
日本の文学賞を
受賞
するとは、
日本文学史において
大事件ですな!
ブロトピ:本のおすすめ

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