“Ç”狂気のファンタジスト塚本晋也、リアルの狂気に…「野火(2014)」

野火(2014)

Fires on the Plain

野火

監督:塚本晋也
出演:塚本晋也、リリー・フランキー

評価:90点

塚本晋也って監督をご存じだろうか?
鉄男」や「KOTOKO」等、狂気の映画を
多数生み出し、国内外からカルト的
人気を博している監督だ。
しかも、監督だけでなく、
主演を張ることも多い体当たり演技も
話題となっている。

そんな、彼が市川崑監督作大岡昇平原作
野火」をリメイクしたった!
右をみても左をみてもリメイク作品に
溢れたこのご時世、
彼はリアルの狂気と向き合うことで
そして狂気のNEXT STAGEへと突き進んだ…

今だからできるリメイク

この作品、冒頭からあっと驚かされる。
同じくヴェネチア映画祭を戦った
インドネシア虐殺事件のドキュメンタリー
ルック・オブ・サイレンス」と
全く絵面が同じ…つまり、
ドキュメンタリーにしか見えないのだ。

緑生い茂った中で、兵士が血と泥に
まみれた格好で出口をひたすら探す。

昔の映像では絶対演出できなかった、
リアルさが強調されている。
だから、観ていて本当に
フィリピンの森に迷い込んだ
気持ちになる。

また、大林宣彦も「この空の花 長岡花火物語
で実践していたのだが、血みどろな戦時中
に反して周りの自然をメチャクチャ綺麗に描く
ことで、戦争の恐ろしさをぐさりと
観客に突きつける。

そして、塚本晋也自ら演じることで
ヤバさが観客に伝わってくる…
いつもの、轟音に合わせて…
やっぱり、映画館で観てよかったと
痛感しながら地獄絵図が始まったのだ…

キリストの受難、あるいはダンテの「神曲」

野火

↑劇場にはサイン入りポスターありけり

そんな、ヤバさむき出しの冒頭。
始まったのは地獄巡りだった…

まず、主人公の兵士が肺病を患い
病院へ行くところから始まる。
病院へ行くと、おぞましい手術
光景が展開されており、
病院のあちこちにゴミとなった
人間の塊がどっさり!
うっとなる描写だ。

そんな空間で、肺病と言っても
全く医者から相手にされず
門前払い。
しかし、本陣に戻ると
「何故戻った!」と叱咤。
地獄へ行っては戻りを繰り返す。

そうこうしているうちに、
ゲリラに巻き込まれ逃走する身に…

次々と、飢え、狂犬、原住民、
頭がおかしくなった兵士

遭遇していく。

リアルすぎる映像も作用し、
観客はダンテの「神曲」の
地獄巡りを肌から体験する
ことになる…
皮肉にもフィリピンの景色が
綺麗なのがマジで恐ろしくなっていく。

ラスト

こんだけ凄い作品、塚本晋也の色を
保持しつつしっかり戦争を描く
ことで「プラトーン」や「ディア・ハンター
と多数の戦争映画がある中でも
群を抜いて恐ろしさとリアリティを
描ききれているのだが、
ヴェネチア映画祭で「ルック・オブ・サイレンス」
に負けたのはラストにあったと思う。

あんだけ、「神曲」が如くどんどん
狂気のレベルがエスカレートしていくのだが、
ラスト急に尻つぼみで終わらせてしまったのは
本当に悔やまれるところだ。

ルック・オブ・サイレンス」が、現実という
フィールドでいつ殺されてもおかしくないことを
ラストまで疾走していたのに比べると
マジで「惜しい!」と泣けてくる。

しかし、「マッド・マックス/怒りのデス・ロード
を10回も観ているそこのあなた!
「野火」の爆音も凄いからユーロスペースに
来なさい!マジなマッドを体感できるぞ~

関連項目

「ルック・オブ・サイレンス」レビュー

「この空の花 長岡花火物語」レビュー

「マッド・マックス/怒りのデス・ロード」レビュー


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